「――真人」
　俺は、なるべく感情を抑えて声を出す。
　…オーケー。俺は冷静だ。常にな。
「一つ聞くが、お前の役目は何だ」」
「何だよ今更。常に公平な立場にいること、だろ？分かってる。俺は馬鹿しか出来ねぇよ。…馬鹿だからな」
　確かに稀にみる馬鹿だ。というかお前、今の状況分かって言ってるのか？
「そうだ。お前は常に公平な所にいる。そういうルールだったな。――で、だ」
　俺は無表情に真人を見遣る。
「その公平な立場にいるはずのお前が、……何をやってる？」
「何って？」
　はははっ。…悪ぃ、そろそろ限界だ。
「そうか、お前馬鹿だからな。分からないなら言ってやる。だがその前に何よりもまず先に、
――その腕の中で寝てる理樹を離せぇっ！」」
「え？何で？」
「何でじゃねぇよ！お前は何だアホな子か！頭幸せな奴か！？」
「すげぇレアだぜ…恭介がマジでキレてる…」
「ああそうさ！俺にだって我慢の限界って奴があるっ。お前は理樹の友人という公平な立場にいるはずだろうが！
それが何で……理樹の恋人になってる！？」
「いや、流れでつい」
「じゃあ何か？お前は”つい”で理樹に告ったのか」
「告ったのはついじゃねぇよ！本気だったさ！」
　だから公平な立場のお前が理樹に真剣に告白してどうする。
「駄目元だったけどさ…。理樹がよ、まずは友達からって言ってくれてよ…」
　いや、お前ら一応前から友達だろ。つーか、いつからホモ達になったお前。
「でもよ、杉並から告られるわ鈴から告られるわで、あいつ悩んでたからさ。
気持ちはっきりさせる為にも、一度俺とデートしてみないかって持ちかけてさ…」
　その時の事を思い出したのか、真人は至福の笑みを浮かべる。
　――取り敢えず、今すぐリセットかけたいんだが。
「そしたら聞いてくれよ恭介！理樹の奴、一回だけならってさ！
で、初デートのその日、俺達は共に一晩を過ごした――！」
「何か表現がエロいが、ナルコレプシーで倒れた理樹を抱えて、寮で一晩看病してただけだからな？」
「まぁな」
「しかもその後、”俺慣れてなくて…身体大丈夫か理樹”とかいう意味深な台詞を吐いて、
理樹に盛大な勘違いをさせた挙句、情の弱さに漬け込んで、理樹の恋人に納まっただろお前」
「勘違いって何だよ、俺デートなんて慣れてなかったんだから、仕方ねぇだろ」
　こんな奴に丸め込まれるなんて、理樹も理樹だ。
　まぁ、あいつが「真人とやっちゃった…どうしよう」とか俺に泣きついてきた時に、
俺がちゃんと説明してやればよかったんだが。
　仕方ないだろ。まさかこういう展開になるとは思わなかったんだ。
　幾ら理樹が情に弱いといっても、真人と付き合うなんて選択を選んじまうなんてな…。
「取り敢えず真人、この世界リセット決定な」
「ぬぉぉぉぉ！？何でだよ！？」
「何でもクソもあるか！お前公平な立場の意味分かってんのか？」
「え？理樹と付き合う権利が俺にも公平にあるって事だろ？」
「違うわー！」
「違うのかよ！？」
　…こいつに、公平な立場なんて言い方をしたのが間違いだったか…。
「じゃぁ俺の立場って何だよ。ったく、ちゃんと言っといてくれよな、頼むぜ恭介さんよぉ」
「何で俺が悪いみたいになってるのかが非常に疑問だが、まぁいい。真人、お前永久に理樹の友達以下な。
はい決定〜」
「以下って何だよ以下って！？」
「当たり前だろ。以上でどうする。理樹と友達以上の付き合いはダメ」
「何だよ、皆はいいのにか？」
「その代わり、皆と違ってお前は最期まで理樹と一緒にいられる。想いが叶って消えるのと、どっちがいい？」
「そんなんずっと一緒がいいに決まってるだろ！-――ちっ。分かったぜ。俺は理樹の親友な」
　さり気無くランクアップしてるな…。
　ま、いいか。取り敢えずこいつが納得すりゃ、次の世界では、無事理樹と鈴が付き合うはずだ。
　
　　　　　　　　　　＊
　
『きょ、恭介』
「どうした理樹」
『あ、あのね、話があるんだけど』
「何だ、改まって。彼女でも出来たのか？」
『あ、う…そ、その…相手が…』
　大丈夫だ。分かってるさ、理樹。
「りん――」
『僕の恋人は筋肉かなって。ね、恭介はどう思う？』
　
　
　真人――お前、存在自体即リセットな…？