「謙吾」
「何だ」
「それは何だ?」
「それ、とは?」
何だお前この状況でシラを切れるつもりなのか?トップギア全開過ぎて脳味噌全壊したか?
「お前な、今自分が何やってるか、分かってんのか」
「何が言いたいんだ、はっきりしろ」
こいつ、ジャンパー野郎のくせにクール気取ってるぞ…。
「ああそうか。はっきりな、はっきり。だったら言ってやる!今すぐさっさと理樹の上から退けぇっっ!」
「何故だっ」
「はぁ?お前なんだそれ、はぁ?理樹の寝込み襲ってんじゃねぇぞコラァ!」
「襲うなどと人聞きの悪い。夜這いは、古来からあった由緒正しき日本の慣わしだぞ」
「古来はどうだか知らんが、現代じゃ只の犯罪だからなそれ!」
「まぁ落ち着け、恭介。理樹が目をさましたらどうするつもりだ」
「なんで俺が非難されてるのか全く以って理解できんが、取り敢えずお前が理樹から怯えの目で見られるだけだろ」
「ふ…、よく分かったな」
…なぁ謙吾。お前本当にどうしちまったんだ…。
「謙吾、思い出せ。お前はこの世界で、理樹をどうしたいんだ」
この世界の目的はお前だって分かってるはず――。
「俺は理樹を一生護る。…ここはその為の世界だ!」
いや違うからな!?
「俺は、理樹がずっと好きだった。初めて出会った日から、ずっとな。だが理樹は――」
謙吾は、辛そうに俺を見る。
「恭介、お前も分かっているだろう。理樹はいつも、お前ばかり見ていた…」
それは、俺も分かってる。理樹の瞳は、笑顔は、声は、――いつも俺に向けられていた…。
「そんな理樹を見続けてきた、俺の気持ちが分かるか、恭介」
「それは…」
「この世界で、お前は理樹の壁として立ちはだかる。支えを失くした理樹が倒れそうになった時、
手を差し伸べてやれるのは、俺だけだ。そうだろう?」
そうだな…ってちょっと待て!
「いい話に纏めようとしてるっぽいが、お前今、倒れた理樹に手ぇ出そうとしてるだけだろ!」
「――チッ」
いや、チッて!?
「やはり恭介に泣き落としは通じない、か」
こ、こいつっ…!理樹の寝込み襲ってやがった癖に、それを正当化しようとしやがったぞ。
頭の螺子が一本外れただけあって、倫理観もリミッター解除されたな…つまりは、俺といい勝負ってワケか。
「謙吾、冷静になれ。こんな事したって理樹とは結ばれないぞ」
「分からんじゃないか」
分かれ、頼むから。
「大体お前、意識のない相手に竹刀振るうか?」
「む。断じてそんな事はせん」
「だろ?今の理樹を襲うってのは、それと同じ事だぜ?理樹だってそんな謙吾は見たくないはずだ」
謙吾は難しい顔で考え込む。ややあって上げた顔には、納得したような表情が浮かんでいた。
「よし、分かった」
「そ、そうか。分かってくれると思ってたぜ」
「――なんて言うとでも思ったか、バーカ!」
なぁにぃぃぃぃぃっ!?
「ふ、冗談だ。安心しろ恭介」
「………」
いや何つーか、理樹に関してはお前、マジで要注意人物だ。全く以って全然安心できんが。
「ホントに大丈夫か?」
頭が。
「何だ疑り深い奴だな。寝込みを襲うなという事だろう?承知した」
何か引っかかるが、ま、どうにか分かってくれたらしいな。一応は納得したみたいだし、いいか。
これで、漸く理樹と鈴が付き合うはずだ。……多分な……。
*
『きょ、恭介』
「どうした理樹」
『あの(ザッ)…、話が…(ブッ)――るんっ…どっ』
「何だ、改まって。彼女でも出来たのか?」
『あ(ザッ)…そ(ザザッ)、…相手がっ…』
何だ、やけに電波悪いな?ま、いいか。言う台詞はもう分かってるしな。
「鈴だろ――」
『謙吾がっ(ザッ)――怖いよッ恭介っ…(ザザッ)…恭介きょうすけきょうすっ―(ザッ)
――助けてたすけてたすけっ…』
ブッ!ツーツーツー……。
「茶番だぁぁあぁぁーっっっっ謙吾おぉぉぉおぉぉっっっ!!!!」
あとがき
理樹クドルート編…。マジ切れ恭介が見てみたかった…。