ストーカー

「恭介、ちょっといい?」
「ん?」
 夜、俺の部屋を訪ねて来た理樹は、やけに不安そうだった。
 何かあったのか…?
「どうした」
「うん。あのね、ちょっと相談があって」
 そう切り出す様子にも、僅かに怯えが見て取れる。理樹は、俺の隣に身を寄せるように座った。
 二人分の体重を受けて、ベットがギシリと悲鳴を上げた。
「あのね、もしかしたら僕の気のせいかもしれなくて、だったら――別に全然いいんだけど…」
「何かあったのか」
 こくん、と理樹が頷く。次いで、俺の服の袖を握り締めて、すがり付いてきた。
 完璧に怯えてるな。しかも尋常じゃ無い。
 俺は安心させるように左手を理樹の肩にまわす。そのまま小さな身体を胸に引き寄せ、抱き締めてやった。。
「大丈夫だ、俺が何とかしてやるから。――話してみろ」
 す、と理樹の身体から緊張が抜けていく。
「うん。ありがと…恭介」
 間近で俺を見上げる顔には、安心したような柔らかい笑みが浮かんでいた。
 俺は、優しく理樹の頭を撫でてやる。
「で、どうした?」
「実はさ…最近、誰かに後を付けられてるみたいなんだ…」
「――ストーカー、だな。何かされたか?」 
「ううん。今のトコは、まだ何も…」」 
「そうか」
 正直言って、理樹は可愛い。リトバス女子メンバーと比べても遜色ない。寧ろダントツだ。
 加えて、能美や小毬を差し置いて、リトバス最弱との呼び名も高い。
 更に、これは理樹には言っていないが、一部男子の間では異様な人気を誇り、写真の売買やらファンクラブもあったりする。
 ちなみに、発見次第写真は没収、ファンクラブは壊滅させている――俺が。
 しかし、今までも、理樹は何度かストーカー被害にあってるしな。
 道端でイタズラされそうになった事も一度や二度じゃない。
 今回も、変質者の類か…?
「理樹、付けられて時の状況は?相手の顔とか姿、何でもいいが…何か分かることはないか」
「それが、よく分からなくて…。付けられてるっていうか、見られてるっていうか」
「気配を消すのが上手いって事か。――やっかいだな」
「一番最近だと、昨日かな。小毬さんと一緒に買い物に行った時、多分ずっと付けられてたと思う」
「昨日か?」
 いや、昨日は別に、理樹の周りに不審な奴はいなかったはずだが。
「あと西園さんに誘われて本屋に行った時も…」
 ああ、この前のか。
 頑張って上段の本を取ろうとしてるお前の横で、脚立に上った西園が本を取ってやってるのが、中々微笑ましかったな。
「クドの荷物持ちで一緒に食器屋さんに行った時もだし」
 なべ持ってフラフラしてるお前を、能美が始終心配しまくってたな。
 もう少し力付けないと、いつまで経っても最弱キャラだぞ、お前。
「僕と葉留佳さんと鈴の三人でゲーセンに行った時も、怖かったよ…」
 あーアレな。鈴が思いの外ダンレボに嵌ってたな。
 で、三枝と鈴を見守ってたはずのお前が、男に声掛けられて連れて行かれそうになった時はヒヤッとしたが、その後鈴に助けられてたのが、何か泣けたぜ。
「来ヶ谷さんにお茶に誘われた時も、最初はずっとだったんだけど、途中で来ヶ谷さんが気付いてくれて、何か撒いてくれたみたいだった」
 そうそう。あいつやっぱ要注意だな。途中で撒かれちまって焦ったぜ。
「最近だとこんな感じかなぁ」
「怪しい奴なんか見なかったが…」
「え?」
「いや、こっちの話だ。――ま、心配すんな。調べといてやる。俺が、絶対守ってやるから」
「…うん!ありがとう恭介!」
「一応、どっか出掛ける時は俺に言っていけ。付いて行ってやる」
「分かった。…いつも、ごめんね」
 俯いた理樹の髪を、俺はくしゃくしゃに掻き回してやる。
「ったく、何遠慮してんだよ。お前の為なら、俺は何でもする――当たり前だろ?だから、そんな顔するなよ理樹」
「恭介…」
 嬉しそうに綻ぶ理樹の顔。
 こういう時のこいつの顔は、マジで犯罪な位可愛い。
 俺は、この笑顔を守りたいんだ。ぎゅっと理樹の身体を抱き締める。
「よし、理樹。久しぶりに一緒に寝るか!」
「え、ええっ…?」
「何だよ、いーじゃないか。昔はよく一緒に寝たろ」
「う、うん」
 俺の腕の中にすっぽり納まる、丁度いい抱き心地。二人でベットの上に寝転がる。
 まぁ、何はともあれ、これで俺は正々堂々と理樹を守れるって訳だ。
 どこのどいつか知らないが、ストーカーさんとやらに感謝だぜ。
 
          *
 
 その後、理樹のお出かけ――という名の、女性陣からのお誘いには全て俺が同行する事になり、ストーカーの気配と共に、女性陣のお誘いも無くなったらしい。
 で、最近は暇になった理樹と俺が遊んでいる。
「やっぱりすごいね、恭介は。恭介が付いて来てくれる様になったら、途端にストーカーっぽい気配なくなっちゃったよ」
「ま、何かあったら、いつでも俺を呼べよ。あと、まだ一人では出歩くな」
「うん!大丈夫。出掛ける時は必ず恭介に言うから」
「そっか」
 お前は、やっぱそうやって笑ってなきゃな。
 
 にしても、ストーカーの奴はどこ行っちまったんだろうな…?
 ま、いいか。
 
 
 
 
 
 

あとがき
 お前だっお前!
 ちなみに、当然修学旅行後の話(笑)。

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