なにをやってもだめなぺんぎんさんが、おほしさまのちからをかりて、すごいことをする。
端的に言えば、小毬の作ったという本はそんな話だった。
「小毬さんらしい話だよね」
「そうだな」
「何か、ぺんぎんさんが小毬さんに重なる気がするんだ」
「――そうか?」
小毬らしい可愛い話だとは思うが、主人公のぺんぎんは、小毬とは違う気がする。
俺が首を傾げると、理樹は意外そうな顔をする。
「恭介は違うと思う?」
「あいつは、すごいなんて言われようが言われまいが、誰かが幸せならそれが幸せな奴だろ」
そういう意味では、俺は小毬を尊敬する。
俺には出来ない。
何よりこの話――多分、主人公は理樹だ。だとすると星は、俺の事か。
「あー理樹くんだぁ」
のんびりした声が背後から聞こえ、俺達が振り向くと、そこに件の小毬がいた。
「噂をすれば、だな」
「ふぇ、噂?」
「うん、今恭介に、この前読ませてもらった小毬さんの本の話、してたんだ。ぺんぎんさんの」
「あ、そーなんだぁ」
小毬が嬉しそうに破顔する。そして、ピッと人差し指を立てた。
「あの話はですねぇ、すごいねって、そんな風に言ってもらいたい人の為のお話なんです」
小毬はなぜか俺を見る。
だから理樹の話なんじゃ――?
そう思って、少し違和感を覚える。理樹は――凄いと言われたいんだろうか…?
「いい話だよね、ちゃんとぺんぎんさんは、すごいねって言ってもらえて」
「だけど本当は、ぺんぎんさんがすごいねって言われて一番嬉しいのは、おほしさまなんです」
「え?そうなんだ…」
「そうなんだよぉ、理樹くん。それからね――」
実はおほしさまが一番、ぺんぎんさんに「すごいね」って言われたいんだよ。
まるですごい秘密をばらすかの様に、そっと小毬が告げる。理樹はただ感心していたが。
俺は、何も言えなかった。
――ああ、そうだった。
『やっぱり恭介は凄いね』
俺は、そう言われ続けていたかったんだ。――他の誰でもなく、理樹に。
周りから凄いなと言われる事にはもう慣れっこで、当たり前になりすぎて。
幼い頃の小さな世界は、増えていく周囲の雑音に埋もれて、やがて見えなくなって。
だけど、そうだった――俺は、ただ理樹に『凄いね』と言われたくて、その手を引っ張って、無茶をやってたんだ。
俺ですら忘れていた。埋もれていた想いを引き上げた小毬に、改めて賞賛の気持ちが湧く。
「小毬」
「ほぇ?」
「お前、凄い奴だな」
「ふえぇ?ぜ、全然凄くないよぉ?」
「小毬さんは凄いよ。きっとすごい作家さんになれると思う」
理樹が真顔でそう言うと、小毬は頬を染めて微笑んだ。
嬉しそうで、少し困ったような――泣きそうな。
そっか、――そうだったな。俺達は……。
「ああ、そうだな。小毬はいい作家になれる」
俺は敢えて笑う。
仮面をかぶれ、小毬。笑え。辛くても、誰に凄いと言ってもらえなくても、笑え。
俺が全部知ってる。俺が全部覚えてる。
全員が凄いと、俺が言ってやる。
だから、笑え。
――他でもない、理樹の為に。
「うん!じゃぁ、もっともっと沢山書かなきゃね」
小毬は――笑った。
お前は、凄い奴だな。小毬。
じゃぁね、と手を振る後姿を見送って、俺は理樹を見遣る。
「なぁ理樹」
「なに?」
「小毬はいい子だな」
「うん。それ、前にも聞いたよ恭介」
理樹はからかうような視線を俺に向ける。
「もしかして恭介、小毬さんの事好きなの?」
「…そうだな」
「えっ…それって」
「ま、お前の方が好きだけどな」
「――」
きょとんと俺を見上げた理樹の頬が見る間に赤く染まる。
「そ、それってどういうっ…!?」
「そのまんまだが」
「あ、う、そ…そう…なんだ」
「ほら、行くぞ」
ぽんと理樹の頭に手をやってから、歩き出す。足音が後ろから付いて来る。
「ね、恭介」
「ん?」
「恭介はさ、将来何になりたいの?」
「俺か。そりゃ男なら、やっぱ一度は宇宙をわが手に、じゃないか」
「う、宇宙なんだ…」
規模が大きいね、と理樹は目を丸くする。
それから綻ぶように笑って、予想通りに言った。
「やっぱり恭介は凄いね」――と。
あとがき
その一言を聞きたいが為に、大きい事を言いまくる(笑)
OPの「そっと誰かのくれた優しい言葉が、君のものだと教えてくれたんだ」との歌詞から。
小毬ちゃんは無自覚最強キャラだと思いまふ。