映画を見ながら

 お正月も後半になると、大体暇になって来る。テレビ番組は中途半端な再放送ばかり。
 僕が恭介の家に泊まりに行ったその日も、朝から暇で、何か映画でも見ようって事になった。
 鈴は小毬さんの所にお泊まりだったし、恭介の両親は親戚の集まりに出かけてる。
 謙吾は剣道部の仲間達と出掛け、真人はよく分からないけど筋肉関係、らしい。
 それで、二人でDVDでも借りてこようか、なんて話になって。
 別に特に見たい映画があったわけじゃなかったけど、適当に借りて。まぁ、大概そうやって何となく借りた映画っていうのは、ハズレな事が多い。
 今回借りたDVDもそうだった。内容は薄くて、妙にこう…下ネタというか――所謂濡れ場…が目に付く、ちょっとナンセンスな二流映画。いや、うん、三流かな。
 せっかく借りたから、何となく恭介と二人で眺めてるけど、あんまり面白くはない。
 と思っていたら、また男女の絡み合うシーンに変わる。……まあ、僕だって男だし、別にそういうシーンが嫌いな訳じゃない。
 ただ何と言うか、恭介と二人で見てるっていうのが、妙に気まずいんだ。
 恭介は別にどうって事ないだろうけど。そう思って恭介の方を伺うと、不意に赤い目が僕を見た。
「理樹」
「何」
「――こっち、来ないか?」
 恭介は、自分の腰掛けてるベットの隣を、ぽんぽんと叩く。
 うっ…やっぱり…。うん、そう来るかなって思ってたけどさ…。
 隣に行けばどうなるのかは予想出来るだけに、素直に頷けない。まだ昼前だしね…。
「僕、ここでいいよ…」
「そう言うなって。こっち来いよ、な?」
 屈託ない笑顔でそんな風に言われたら…僕に断る選択なんてないも同然だ。
 ちょっとだけ躊躇して、だけど結局、恭介の隣に移動する。
 いや、うん、別に…何かされると決まったわけじゃないしね?
 視線をテレビの方に戻すと、映画では、丁度男性が女性を後ろから抱き締めて、項にキスをしてる所だった。
「理樹…」
 するりと恭介の手が横から伸びてきて、僕を抱き締める。それから、ハイネックの襟がそっと下げられて、項に柔らかく熱い唇が押しつけられる。
 って行動が早いよっ!
「きょうすけっ」
「可愛いな、理樹…」
 ちゅ、と音を立てて首筋にキスされて、喉が震えた。恭介は、服を上から身体を弄って来る。
「恭介ってば…え、映画っ…」
「見てていいぜ?」
「んっ…そんな、のっ…」
 い、意地悪だ。出来るわけないだろっ。
 僕のシャツをズボンから引き出して、そのまま手が、裾から服の下に入り込む。
「ぁっ…」
 息を呑んだ僕の耳元で、恭介の笑う気配。耳の後ろをぺろりと舐められて、思わず首を竦めた。
 見えない服の下で、傍若無人に大きな手が這い回る。片手が胸の飾りを見つけ、そこを抓まれただけで、僕の身体はびくりと跳ねる。
「んっ…」
「ここ…尖ってるな」
「恭介っ…まだ昼っ…」
「別に構わないだろ」
「や、でもっ…ほら映画はっ…」
「だから見てていいって」
「恭介は…っ」
「俺か?俺は――お前を見てるからな」
 映画なんかよりよっぽど楽しいぜ?と囁かれて、羞恥にかっと頬が熱くなった。
 た、楽しいって何だよっ…!
 でも、その言葉通り恭介はホントに楽しそうな顔をしてて。
 ああもう、何だってこの人はいつもこうなんだっ…!嫌だとか駄目だとか、言えなくなっちゃうじゃないかっ。
「理樹…ほら、ちゃんと映画見てろって」
「っ…ん…」
「お正月の間、皆いたから――シてなかったもんな。けど、今日は誰もいないぜ?」
「あっ」
 大胆に動く手に、熱い吐息が漏れる。
 そうだよね…今日は、二人だけ――だもんね…。
 恭介と僕の二人しかいない。そう思ったら、何だかひどく猥らな気分になって、思わず甘えるように、恭介に身を擦り寄せていた。
「きょうすけ…」
「ん?」
 優しく眼を細めて、恭介が僕の頭を撫でる。
 たまには…僕から強請ってもいいよね…?
 背後を振り返って、恭介の唇の横に、そっと自分の唇を触れさせる。すぐに恭介の笑みが深くなった。
「何だ、珍しく積極的だな」
「た、たまにはね」
 誰もいないと分かってるから出来る事だけど。
 それからふと思いつく。一度くらい、恭介の要望に素直に応えようかな、なんて。
「あ、あのね恭介」
「なんだ?」
「その…何か――要望っていうか…お願いとかある?」
「どうしたいきなり。――そりゃ、色々あるが」
「ごめん、一個だけで…」
「――じゃ今日は、駄目とか、嫌とか、そういう発言無しってのはどうだ?」
「…。う、うん…」
 一瞬迷って、それから頷く。途端恭介の唇が弧を描いてしなるのを見て、ちょっとだけ早まったかも、なんて思ったけど。
 でも、たまには、ね…。
 恭介の手が下肢へ下りていく。ズボンのボタンとチャックが外されて――下着の中に、手が入り込んでくる。
「んっ…!」
 きゅっと前を握られて、それだけで声が漏れそうになって噛み締めた。
 ゆるゆると上下に擦られて、恭介の腕にしがみつく。
「はっ…ぁ…」
「――気持ちいいか?」
「う、うんっ…」
「ホント、今日は素直だな…」
 嬉しそうな声。そ、そんな喜ばれても…なんだか複雑なんだけど…。
「素直な可愛い理樹には、――ご褒美やろうか」
「え…あっ!?」
 途端にぐっと強く扱かれる。びくびくと身体が自然に震えてしまう。
 う、ぁ…気持ち、いい…。
 久しぶりなのにそんなにしたらっ…!
「相変わらず、感じやすいな」
「んっ…あ」
 こんなにされたら、誰だって…!
 だけど、抗議の言葉は口に出さずに飲み込んだ。代わりに、目を瞑って恭介に凭れ掛かる。
「どうした…今日はホントに素直だな」
「だまに、だからね…」
 念押しするように言うと、恭介は面白そうに目を細めた。
「ふぅん?…俺はいつでも大歓迎だが」
「――」
 駄目、とは言わない約束だから、無言で睨む。恭介は肩を竦めて、耳朶にキスをしてくる。
「よしよし…怒らない怒らない」
「っ…」
 次いで、手の動きを再開されて息を呑んだ。
 耳の後ろや項に、何度も口づけが落ちてくる。恭介の指が、するりと僕のものから外れて、――更に奥へと移動していく。
 辿り着いた入り口を、優しく円を描くように解される。
「ふ、う…」
 ひくりと震えながら、恭介の指の動きに耐える。燻るような熱が身体の奥に篭っていく。
 焦らすようにじっくり解されて、漸く指が挿入された頃には、すっかり息が上がっていた。
「恭、介…」
「どうした?」
「んっ…も、いい、から…」
「いいって何が」
「――ゆ、び…」
「指が…イイのか?」
 分かってるくせに、わざとそう言って恭介は指を増やしてくる。
 奥の感じる所を、指先でぐっと押されて身体が勝手に跳ね上がった。
 いつもなら――そろそろ限界な事を告げてる…。やだ、とか、駄目、とかそんな言葉で。
 でも今日は言わない約束だから――代わりの言葉を探す。
 思いついたのは、恥ずかしい言葉ばかりで。もしかして、恭介はこれを言わせたかったんじゃないかと思うくらい。
「きょうすけ…」
「ん?」
 奥を蹂躙する腕に縋りつきながら、恭介を振り返る。それから、震える声で告げた。
「お、ねがい……恭介が…ほし、い…」
「――イイ子だ」
 ああやっぱり。恭介が凄く満足そうに笑う。
 すぐにベットの上に押し倒されて、ズボンを脱がされる。
 恭介が、僕の足首を掴んで左右に割り開いていく。
「っ…」
 恥ずかしい箇所が晒されて、恭介の視線を感じた身体が、赤く染まっていくのが分かる。
「きょうすけっ…」
「ん?」
「は、…恥ずかしい、よ…」
「可愛いなぁ…理樹」
 恭介が甘い声で囁く。手が脹脛を撫でながら上って来て、膝裏を掬われる。
 焦らすようにゆっくり持ち上げていく。嫌だとか駄目だとかは言えなくて――されるがままに任せた。
 膝が胸に付くほど身体を折り曲げられて、昼間の明るい室内で、恭介の目前に全部が曝け出される。
 ――僕にまでその光景が見えて、あまりの羞恥に思わず顔を横に背ける。
「中々すごい眺めだな…」
「そんな…見ないでよっ…」
「駄目か?」
 …駄目、とは言わない約束だ。なのに恭介は、そんな意地悪を言う。
「理樹…ほら、見てみろよ」
「っ…」
 嫌だと言いそうになって唇を噛む。…うん、今日は、恭介の要望に素直に…。
 一度は背けた顔を、元に戻す。目の前には――直視できないほど、欲望に蕩け切ったものが蜜を垂らしていて。
「あっ…」
「見えるだろ…ここも、それからこっちも、すごい事になってるな」
「っや…!」
 反射的に口走って、それから慌てて訂正した。
「…えと…や、じゃない…」
「そっか、嫌じゃないか」
 言って恭介が小さく笑う。
「無理しなくていいんだぞ?」
「無理してないよ」
「――そっか。じゃあ…」
 恭介が、僕の上に覆いかぶさってくる。
「この体勢だと、入るトコ見えるだろ」
「っ…!」
 蕩けた秘所に、熱い塊が触れて。
「――あっ…ぁ…!」
 本当に、入って来るのが見える。
 あ、あんなのが…身体の中に、入って――!
「あ――んっぁぁっ…!」
 爪が白くなる程シーツを握り締めて、恭介を受け入れる。
 あ、ぅっ…はいって――る…。
「理樹」
「はっ…う…」
「顔――すげぇエロい」
「ふ、くぅ…んん」
 恭介にキスされて、その熱に思考まで蕩けていく。
「んっ…きょうすけぇ…」
「――映画」
「え…?」
「終わっちまったな」
 ちらりと、恭介の視線がテレビの方へ向いて、釣られてそっちを見ると、いつの間にかエンディングが流れていた。
 結局内容なんて分からなかったけど。
 でもいいや。僕も、映画を見るより…恭介を見てる方がいい…。
「――映画より、僕じゃなかった…?」
 こんな最中に映画を確認してた恭介の余裕が、ちょっとだけ癪に触って、そんな事を言ってやる。
 恭介は、当たり前だと笑って――ゆるく突き上げてきた。
 身体を揺すられながら、僕は恭介に腕を伸ばす。抱きついて、震える唇でキスをせがむ。
 恭介が目を細めて微笑むのが見えて――。こんなに喜んでくれるなら、たまには素直になるのもいいかな、なんて思った。


         *


「けど…今日はホント、どうしたんだ?」
 ベットの中で、恭介が僕の髪を撫でながら聞いてくる。
「――今更だけどさ…」
「ん?」
「……ぼ、僕からのお年玉っ…」
 ぱっと寝返りをうって背を向ける。だけどすぐに、恭介が後ろから抱き締めてくる。
「――俺に、か。そっか。…な、理樹」
「なにさ」
「来年もくれるか?」
「ば、馬鹿っ…」
「馬鹿でいいさ。――じゃ、早速また使わせて貰おうか」
 何を、と思う間もなく恭介の手が僕の身体を這いまわり始める。
「ちょっ…」
「今日は、嫌とか駄目とか言わないんだろ?」
 せっかくもらったお年玉なら有効に使わないとな、と恭介。
 お年玉なんて言った手前、今日一日はさっきの要望を無下にも出来ない。
 ってでもまだ昼なんですけどっ!しかも今さっきしたばっかりなのにっ!
 し、しまった…!夜にすれば良かった!
 後悔先に立たず、とはこの事で――。来年のお年玉は夜にあげようと、ひそかに心に決めた…。

 
 
 
 
 

あとがき
 ヤマなしオチ無し意味なしー。一週間ぶりに書いたssがこれってどーよ…。
 まぁ、恭介にお年玉くれるのは理樹位かなと(笑)。
 恭介は全員に何か上げてそうですねー。
 いやぁ…最近シリアスばっか書いてたからか、めーろめろなえーろーが書きたくなりました…。
 ついでにアホっぽい真理とか、天然馬鹿ップル謙理とかも書きたくなってきました…。
 
 というか…7000hitいってるよ…いつの間にーーっ!?
 ぶはぁっ…一週間一回更新で申し訳ない…!

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