プロポーズ…?

「あのよー、理樹」
「何?真人」
 それは、いつものように段ボールの上で課題に取り掛かり、横から真人が答えを写してる最中の事だった。
「俺達よ」
「うん」
「結構付き合い長ぇよな」 
「そうだね」
 そりゃ幼馴染だしね。
「いきなりどうしたの?」
 問題を解きながら、何とはなしに聞いてみる。真人の方も、別段いつもと変わらず、ペンを動かしながら答える。
「んーいや、卒業したらよ」
「うん」
「結婚しね?」
「う――」
 ………。
 多分、僕の耳がおかしくなったんだと思う。うん、そうとしか考えられない。
 それにしたって、ひどい空耳だよ…。
「ごめん、真人。もう一回言ってみてくれる?よく聞こえなかったんだ」
「だからよ、俺達結婚しねぇか?」
「――」
 えーと。あれ?やっぱり結婚って聞こえるんだけど?どうしたのかな、僕の耳…?
「何度もごめん。何か耳おかしいみたいでさ…。けっこん、って聞こえるだけど」
「おう。そう言ったぜ、俺は」
 そっか。やっぱり言ったんだ。
 けっこん――けっこ……。
「結婚ーーーっ!?」
「うおっ何だよ、んな大声出すなよ。びっくりするじゃねぇか」
 びっくりしたのはこっちだよっ!
「いやいやいやっ真人頭大丈夫!?本気!?っていうか正気!?」
「本気だし正気に決まってんだろっ」
「ええぇぇぇっ」
 とうとう馬鹿が高じてエライ事にっっ!
「ま、真人落ち着いてっ」
「俺ぁ落ち着いてるぜ」
「落ち着いてる場合じゃないよっ」
「どっちだよっ」
 ああぁぁ、そうだよまずは僕が落ち着かなきゃ。
 よ、よし。まずは理由を聞く所から始めよう。うん。
「あのさ、真人?何がどうなっていきなり結婚?」
「そんなん決まってるだろ。俺が理樹を好きだからだ。これでもずっと考えてたんだぜ?」
「いやいやいやっ好きとかそういう問題じゃないしね?ええと…僕が男だって分かってる?」
「当たり前だろ」
 あ、良かった。その辺の認識はあるんだ。……って全然良くないよっ!
「男同士で何で結婚さっ」
「何だよ。イイだろ?」
「良くないから」
「んだよっ、じゃあ俺が女ならイーのかよ?」
「え…」
 ――うわっ想像しちゃったっ!?鬼こわっ!!
「絶対ヤダっっ!」
「んじゃ、理樹が女ならイーのか?」
「そ、それもダメっ」
「んだよじゃーどーしろってんだよっ!」
「別にどうもしなくていいよっ」
「俺達付き合って長いよなって言ったら、頷いたろっ!?」
「そういう意味じゃないよっ」
「だったらどーゆー意味だよっ」
「幼馴染とか友達って意味でっ…!」
「俺だって別にそういう意味で構わねぇ!」
「だったら友達のままでいてよっ!」
「夫婦だって大して変わんねぇだろ!?」
「変わるよっ」
「だぁぁぁもう訳分かんね!」
 いやそれこっちのセリフだからね!?
 真人は頭をガシガシした後、睨みつけるように僕を見た。
「俺ぁ理樹が好きなんだよっ!文句あっか!」
「――や、文句はないけどさ…」
「だったら結婚しよーぜ」
「だから何で結婚さっ!?」
 ――とまぁ、こんな馬鹿馬鹿しい押し問答を、僕と真人は、実に一時間もの間続けた…。



 ぜぇ…ぜぇ…
 はぁ…はぁ…
 僕と真人は、なぜか部屋の中央で仁王立ちし、二人で睨み合っていた。
 何でこんな事になってるんだっけ…。
「やるじゃねぇか、理樹」
「真人もね…」
 お互い、喉は枯れている。
 何かイマイチ展開が間違ってるような気もするけど…まぁいいや。何だか疲れて、思考力が働かない。
 目の前で、真人が不敵に笑う。
「これで――決めようぜっ…理樹っ!」
 真人が拳を頭上に振り上げる。
 そ、そのポーズはまさかっ…!
「じゃーんけーんっ」
「子供かっ!」
 思わず突っ込んだ僕の手は、パー。そして、真人が出したのは――。
 グー!
「うぉぉぉ負けたぁぁぁっ」
「やったー!真人に勝ったぁぁっ!」
 嬉しくなって飛び跳ね、そのまま僕は真人に抱きついた。
「やったよ真人っ!勝ったよ!」
「お、おうっ!良かったなっ。流石は俺の理樹だぜっ!」
 がしっと肩を組んで、お互いに抱きあう。
 ぎゅうぎゅうと真人に抱きしめられて――段々苦しくなってきた。
「ま、真人っ…そろそろ放してっ…」
「何でだよ。このまま遊ぼうぜ!」
「いやいや、このままってどんな遊びさ」
「フっ…驚くんじゃねぇぜ…?その名も――筋肉牢から脱獄ごっこだぜっ!」
「つまり、自力で真人の筋肉から逃れろって事?」
「何だよもっと驚けよっ!」
「どっちさ」
「ま、いいけどよ…。とりあえずそういうこった」
 自信満々な真人。そりゃそうだ。どう転んだって、正攻法で僕が真人の筋肉に敵うはずはないし。
 ――となると、絡め手で行くしかない。要は――真人が自ら手を離してくれるように仕向ければいい訳だよね?
「真人の筋肉って、やっぱり凄いよね…」
「へっそう褒めるなって」
「いやいや、流石だよ。やっぱり毎日のトレーニングの賜物?」
「まぁな」
「そっかぁ。腕立て伏せとか毎日だもんね。――あれ?そういえば今日はしてなくない?」
「おっと言われてみりゃそうだな。――よっしゃ、じゃ早速…」
「そうそう――ってうわぁっ!?」
 真人は左腕で僕の身体を抱え直して、右腕一本だけ腕立て伏せを始めた!
 いや凄いよっ凄いけどさっ!
「ふっ…ふっ…ふっ…」
「うわっうわっうわっ!?ま、真人っ…!やっぱりそのっ…ふ、腹筋はっ…!?」
「お、そうだな。そっちもやるか」
 結果は――推して知るべし。
 いや、寧ろ真人の筋肉が恐るべしというか。凄過ぎるよ…真人…。
 こうなったら後は――。
「ね、真人。一杯運動して疲れたんじゃない?」
「いや、まだまだだぜっ!」
「でもホラ、前に言ってたじゃない。使った後はちゃんと休ませてあげなきゃいけないって」
「おう」
「だからさ。――そろそろ、ベット行かない…?」
「お――」
 と言ったきり、真人が硬直する。う、やっぱりこの作戦は駄目かな…。
 真人が眠ってくれれば、流石に放して貰えると思ったんだけど。露骨過ぎてバレたかな。
「ベットか…。いや、けどそりゃ流石に早くね?」
「え?そう?もう充分だと思うけど」
「俺ぁ別に構わねぇけどよ…」
「だったらほら、早く寝ようよ」
「――マジでいいのかよ、理樹」
 え、何でそこで僕に確認?しかも何か真面目な顔だし。
 別に僕はベットに行こうって言っただけ、で……。あ、れ――そういえばさっきまで、僕と真人って結婚するとかしないとかで騒いでたような…。
 それでこの流れって、なんか誤解されない?
「いんだな?」
 て言うか…すでにされてるーー!?
「うわっちょっ…待って待って待ってっ!違うよ違うからっ!」
「何だ、違うのかよ」
「当たり前だろっ」
 危なかったっ…!
 真人はちょっとばかり気の抜けたような顔をしただけで、特に焦った様子もない。
 こういうトコ、真人って大人なのか子供なのかよく分からない。
「んじゃ、どうするよ」
「そうだなぁ…」
 うーん。
 取り敢えず身の危険は去ったし、何か別に、わざわざ頑張って真人から逃げる必要もない気がしてきた。
「どうしよっか」
「もしかして疲れてんのか?理樹」
「まぁ…色んな意味でね…」
 主に精神的に。
 すると真人が、珍しく眉を顰めて考え込む。
「――んじゃよ、一緒に寝るか?」
「は?」
 真人と一緒に?ま、まさかっ…!
「い、いやいやっ…」
「別に変な意味じゃねぇって」
 焦った僕に、真人はがりがりと頭を掻く。
「俺も疲れてっからよ。どうせなら一緒にって思っただけだよ」
「あ、…そ、か…」
 何だか、邪な想像した僕の方が悪いような、後ろめたい気分になる。
 そうだよね…真人だもんね。下心とかあったら、真っ直ぐ言ってくれるはずだし。
 真人への申し訳なさも手伝って、何となく断れなくなる。
「――そう、だね…」
 うん…。まぁ、いいかな。
 恭介とは昔よく一緒に寝てたけど、真人と二人で寝るなんて、そう言えば珍しいよね。
「よっしゃ。じゃ寝るか!」
「わっ」
 どさり、と二人でベットの上に倒れこむ。
 でもこれって…西園さん辺りに見られたら、物凄い誤解を受けそうだなぁ。鈴だったら…「きしょいっ」って叫んで蹴りかな。
 そう思った瞬間、――不意に、ドアが開いた。
 ちりん、と耳慣れた音。
「おいお前ら。ドルジ見なかっ――」
 鈴が、ひゅっと小さく息をのむ。やや静寂。そして――パタン、と静かに扉が閉まった。
 ………え?何で?
 いやいやいやっここは「お前らきしょい!」とか、「何やっとんじゃー!」とか叫んで、真人に蹴りだよね!?
 なのに何で……無言?
 もしかして――本気ですごい誤解されてないっ!?
「りっ…鈴っ!?」
「何だ、あいつ。何しに来たんだよ」
 真人が閉じた入口を振り返って、一瞬解放された隙に、僕は真人の腕から逃げ出した。
 ベットを降り、慌てて鈴の後を追って部屋を飛び出す。
「鈴っ待って!」
「ふかーーーーーっ!!」
 追いかける僕に気付いた鈴が、毛を逆立てた!
 そして脱兎のごとく逃げていく。ああぁぁ…完璧に誤解されてるよ…。
「理樹を威嚇するなんて珍しいんじゃね?」
 いつの間にか僕の横に来ていた真人が、きょとんと鈴を見送る。
 だ、誰のせいだよっ…!ていうか、鈴の誤解とくの…大変なのに!
「もうっ…真人のせいじゃないかっ」
「俺かよっ!?」
「そうだよっ」
「何で俺だよっ」
「何でも!」
「な、何だよ…怒ってんのかよ、理樹っ…?」
「もう知らないよっ!真人の馬鹿っ」
「うぉぉぉ訳わかんねぇぇっ!」
 頭を抱える真人を置いて、僕はさっさと部屋に戻る。
 すぐ後ろから、真人が慌てて追ってきて――結局、口喧嘩しながら、僕らは部屋に戻った。
 ふと…もしかしてこれって痴話喧嘩に見えたりするんだろうか、なんて思った事は、――真人には秘密だけどね。

 
 
 
 
 

あとがき
 えっと…真理…。ほんとかっ!?うわぁ…やべぇ楽し過ぎる…(笑)なんだこいつら…ラブラブでもなんでもねぇのにっ!
 ある意味ホントのガチホモかっ…。うわー理樹流されやすいなぁ…誰が相手でも違和感なく…凄いな、お前(笑)
 いやでも、恭理樹とラブラブっぷりとの違いは…理樹が我侭言ってくれるって事ですね。
 恭介が理樹に我侭放題なのに対し、、理樹は真人に対して我侭放題(笑)。っつーかっびしばしヒドイ突込み入れてくれます。
 何か…夫婦漫才。

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