コタツで蜜柑

 冬はやっぱりコタツで蜜柑だよね――そんな話をお昼休みに謙吾と二人でしたのが、つい昨日の事。
 今朝になって、謙吾がやけに嬉しそうに、「後で部屋に遊びに来ないか」なんて誘うから、どうしたのかと思ったら――。
 部屋の中央に電気コタツが居座っていた。
「謙吾…これ、どうしたの…?」
 ご丁寧に、卓上には籠に入った蜜柑。ついでに、これは鈴のだと思うけど、猫まで丸くなっていた。
 謙吾が電気コタツのコンセントを入れる。
「すぐに温かくなると思うが」
「や、それはいいんだけどさ…」
「ふむ、では温かくなるまで、これでも着ていろ」
 そう言って謙吾が赤い物を差し出してくる。――こ、これはっ…!
 リトルバスターズちゃんちゃんこっ!?
「ど、どうしたのこれっ!?」
「フ…こんな事もあろうかと、大分前に作っておいた物だ」
 いや、そんな誇らしげに…。うーんでも確かにこの刺繍は凄いかも…。
 謙吾が凄く期待の目で見つめてくる。え…やっぱこれ僕が着るの…?
 まぁ…いいか。うん、こうしてみると猫も可愛い…かもしれない。綿が入って暖かそうだしね。
 とりあえず袖を通してみる。サイズは僕にぴったりだ。
 謙吾が満足そうに頷いて、もう一枚リトルバスターズちゃんちゃんこを取り出す。
 ってペアルックっ!?いやまぁ…いいけどさ。
「それにしても、コタツなんて急にどうしたの?」
「ああ。――突然欲しくなってな」
 何故かすっと視線を逸らす謙吾。
 ぴかぴかの新品コタツと、蜜柑。外には雪が降っている。
 あー…何かわかっちゃった…。そっか、もしかして――。
「ね、謙吾」
「何だ?」
「――昨日、買いに行ったの?」
「……う、む…」
 何だか難しい顔で、謙吾は渋々頷く。
「寮の倉庫にあれば良かったんだが――生憎見つからなくてな…」
「高かったでしょ」
「いや…そんな事はない」
 謙吾はそう言ったけど、僕たち学生にしてみれば、どんなに安くたって結構な出費のはずだ。
 昨日部活が終わってから寮の倉庫を探して、そこで見つからなくて買いに行ったのだとすれば、暗くなってから寒い中行った事になる。
 しかも、放課後すぐに来たのに、ここまで準備が出来てるって事は――どう考えても配達じゃない。
「これ、昨日の夜に、一人で背負って来たの?」
「――まぁ…」
 ああもうっ…こういうトコはホントに馬鹿なんだからっ!
 思わず僕がため息を吐くと、謙吾は見る間に落ち込んだ。
「すまん…その、理樹が喜ぶかと思ったんだが…」
 そりゃね、分かってるよ。謙吾が考えそうな事くらい。僕が昨日――コタツに蜜柑がいい、なんて言ったから。
 たったそれだけの事で、こんな事までやっちゃうなんて…。
 ああもう…ホントに馬鹿だなぁ…。
「あのさ、気持は嬉しいよ?」
「そうか…」
「でも、こんな事までしなくていいからね?」
「――分かった」
 生真面目に頷く謙吾に、僕は小さく笑って、コタツに入る。
 謙吾も僕の向かい側へ。
「うむ…温かいな」
「うん、あったかいね」
 二人で向かい合って、どちらからともなく蜜柑に手を伸ばす。そのまま静かな時間が過ぎる。
 皮を剥きながら、先に口を開いたのは僕だった。
「ねぇ謙吾」
「ん?」
「――次に何か買いに行く時は……一緒に行こうね」
 不意に蜜柑を剥く謙吾の手が止まる。ちょっとだけ驚いた顔が僕を見る。
 うん…僕の為に、っていうのはホントに嬉しかったんだ。だけど――。
 暗くて寒い中、謙吾が一人で行ったと思ったら、何だかそれは嫌だなぁって思ったから。
 謙吾は勿論一人で平気だろうし、僕なんかが付いて行ったって荷物持ちも出来ない。それは分かってる。
 だけど…二人で行ったら、暗くても寒くても、きっと…あったかいんじゃないかな。
 ――それに、謙吾と二人で買い物に行くのは、何だか楽しそうだしね。
「次は、二人で行こうよ」
「…心得た」
 微笑む謙吾と、少しくすぐったい気持で視線を交わす。それから、ふと思いついて、僕は右手の小指を謙吾の前に差し出した。
「じゃ、約束」
「…?」
「ほら、謙吾も小指出して」
「指きりか…!?」
「うん」
「…っ――そうか、指きりか…」
 そう言って戸惑う謙吾が、ちょっと可愛い。
 普段はくさいセリフだって何だって平気で言っちゃうくせに、こういう時は妙に照れたりするんだ。
 謙吾が視線を逸らしながら、手を僕の前へ。それは無骨な、でも――力強くて優しい手だ。
 不器用に差し出される手に、僕は小指を絡める。
「はいじゃあ…指きりげーんまーん…」
「―――」
「ほら、謙吾も言って」
「俺もかっ…!?」
「そうだよ。はいじゃあ一緒にね?指きりげーんまーん…」
「ゆ、指きり…げーんまーん…」
 随分照れていたけど、たどたどしくそれでも僕と一緒に言ってくれる。
 前を見ると、目元を赤く染めた謙吾が、妙に真剣な顔で「指きりげんまん」をしている。
 その姿に、思わずクスクスと笑い声が漏れてしまう。謙吾が怪訝そうに僕を見返した。
「どうした」
「だってさ…ロマンティック大統領が、――ゆ、指きりなんかで照れてるんだなって思ったら…」
「――仕方ないだろう。…こら、笑うな」
「ごめ……だって…!」
 笑いだしてしまうと止まらなくて、小さな笑いは零れ続ける。
 謙吾は忽ち仏頂面になってしまった。
「そんなに笑う事はないだろう」
「ごめ、ごめんって…!」
 不貞腐れたような――いつもは大人っぽい謙吾の、年相応な顔。
 それを見られるのが嬉しくて、結局僕は、笑顔を収める事が出来なかった。
 外には雪が降っている。
 温かい部屋の中には、コタツと蜜柑。
 それから――謙吾と僕がいて。
 二人でまどろみながら、猫と一緒にコタツで丸くなる。
 でもきっと…コタツなんかなくたって、謙吾と二人なら、いつでもあったかいんだろうなぁ…。

 
 
 
 
 

あとがき
 何か突発で謙理ss…おおぉぉ!?何だ、何気に馬鹿ップルっ!?意外にも書いてみたら、謙吾が純情でした…。しかもこんだけ馬鹿ップルで付き合ってないですよ、この二人…。
 おかしいな…最初は「指きりげん…”マーン”!」な激ギャグ予定だったのに…!ほのぼのラヴに…。理樹が、謙吾には何気に優しいのですよ…。何でだお前…。
 そして…あり得ない事に、ゲームの中の「一生守ってやる」で、「うん」っていう選択選んだら――というシリアスBadendが頭を過りました…。俺はアホだ…。

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