目隠し

「なんつーか…凄い格好だな…」
「そんな事言ってないで、早く解いてよっ」
 まるで感心するような恭介の声に、僕はベットの上に転がったまま抗議の声を上げる。
 そりゃあそうだ。だって今の僕の格好ときたら…。
「まぁ待てって。目隠しで後ろ手に縛られてる理樹なんて、早々見られるものじゃないからな」
「当たり前だろっ!?」
 そんなの早々見られてたら、僕変態じゃないかっ!
 大体こんな格好になった理由だって、ちゃんとある。
 つい数時間前、女子寮の風呂が壊れたとかで、男子寮の風呂を、急遽女子が借りる事になった。それがそもそもの始まりだ。
 僕たち男四人は、今日は恭介の部屋で寄り集まっていた。そこへリトルバスターズ女子メンバーが、風呂を理由に押しかけて来たんだ。
 押しかけてきた女子メンバーによって、僕を除いた他三人の男性陣はなぜか部屋から追い出された。
 というか、どうして僕だけ追い出されなかったのかが凄い謎なんだけどさ。
 鈴曰く「理樹は可愛いからいい」だそうだ。――いや、僕も一応男なんだけどね?
 深く理由を問い質すと僕が落ち込みそうな予感がするから、追及はしなかったけど。
 で、一人女子の輪に取り残された挙句、途中から何だか、胸がどうとか揉めば大きくとか……妖しげな会話になり始め――。
”ふむ。興奮した少年がオオカミにならないよう、縛っておくか”
”じゃ、ついでに目隠しもデスネ!”
 来ヶ谷さんと葉留佳さんの問答無用な提案により、僕は、両手を後ろで縛られ目隠しまでされて、恭介のベットの上に転がされた。
 ……今考えるとひどい扱いだよね…!?
 その上、女子寮に戻る時間になったら、薄情にも皆はこのまま僕を放置していった。
 どうせ後で部屋に恭介が戻って来るのだから、恭介に解いてもらえばいい、という事らしい。
 ――そして、現状に到る訳だけど…。
「恭介ってば。早く解いてよ」
「――何か、エロいな」
「っ…も、馬鹿なこと言ってないでさ…」
 後ろ手に縛られてると身動きも満足に出来ないし、目隠しのせいで何も見えないから、結構怖いんだ。
 ギシリ、とベットの軋む音が聞こえて、ほっと安堵する。人の気配が僕の上に覆いかぶさってきて――。
「って…恭介っ!?」
 するりと手が伸ばされたのは、目隠しの布にでも、両手を縛る紐にでもなく。
 無防備にさらけ出していた顎の下だった。擽られて、思わず首を竦める。
「ちょっ…恭介!やめてよ、擽ったいよっ」
「ほらほら」
「もっ…やめてってば…!」
 耐えきれずに笑い声が零れる。
 ああもう、無抵抗の人間に何するんだよっ…!
 暫く擽って満足したのか、次に恭介が手を伸ばしたのは――。
 ……え?ちょっと待って。何か僕の上着の前、開けてない…?
 そう思っていたら、首の辺りで衣擦れの音がして、シュル…とネクタイが抜かれていくのが分かった。
 ええと…?
「あ、の…恭介…?」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくてさ」
「どうした?」
「いやいや、別に言い方を変えて欲しい訳じゃないからっ。――な、何してるの…?」
「そりゃお前――その格好で、ベットの上だぜ?悪戯するしかないだろ」
 ああ、そっかイタズラ……って何言ってるかなこの人!?
「ちょ、ちょちょっ…!まさか本気じゃないよね…!?」
「俺はいつでもマジだ」
「いやいやいやっ」
「さて……どうするかな…?」
 うわー!何でそんな新しい遊びを思い付いたと言わんばかりに楽しそうな声!?
 目隠しのせいで恭介の表情は見えないけど、声でどんな顔をしてるのかは大体予想がつく。
 きっと今の恭介は、すっごく楽しそうな顔をしてるはずだっ…!
 この状況って…もしかして、とんでもなく危険なんじゃっ…!
 僕がそう気づいた時は、時既に遅し、だった。
 足が動くとはいえ、目も見えず、手も使えない状態では、逃げられもしない。
 あっさりとワイシャツのボタンが外されて、外気に肌が触れる。
「――っ」
 何、されるんだろう…。
 視覚を奪われてる僕には、恭介の次の行動が予測出来ない。
 不意に肌の上を、つ…と指先が滑った。
「はっ…」
 びくり、と身体を震わせてしまう。
 見えない分、触れられる感覚には鋭敏になっている。
 その上、いつどこに触られるか分からず、不安と緊張に心臓が高鳴り出す。
「――もう、尖ってるな…」
「やっ」
 恭介の指が、胸の尖端ににじり寄ってきて、きゅっと捻ねる。思わず声を上げそうになって、唇を噛んだ。
 何で、こんなっ…。
「や、やめてよっ…恭介っ…!」
「なんで」
「や、だよ…!」
「大丈夫だ。――ちょっと悪戯するだけだって」
 舌舐めずりするような恭介の声。
 ちょっととかそういう問題じゃないからさ!
「恭介っ…目隠し、取って…!」
「けど、その方が興奮しないか…?」
 せめて視界だけでも取り戻したかったけれど、恭介にやんわり却下される。
 そして、肌蹴られた胸の中心にやわらかなものが触れた。
「っ…」
 ゆっくりと、ぬめる感触が肌の上を這っていく。
 胸の尖端を啄ばまれて、息をのむ。
 吸いついてきた唇に食まれ、舌で押しつぶされて、びくびくと身体が震えた。
 や、だ…そんな、何度も…。
 暗闇の中、恭介の愛撫だけがやけに鮮明で、触れてくる指や唇の感覚だけを追ってしまう。
「は…ぁ、……んっ」
 思わず熱い吐息を漏らした途端、恭介の動きが不意に止まる。
 ?……どうしたんだろう。
「きょうすけ…?」
「――ヤバいな」
「な、何が…?」
「…マジですげぇエロい…」
 少しだけ上擦った、興奮したような声音にかっと頬が熱くなる。
 恭介の手が脇腹を撫でて――ズボンの上に移動すると、腰の辺りで止まる。
 ベルトのナックルが、カチャリと音を立てるのが聞こえた。
「ちょっと…!?」
「こら、暴れるな」
 軽々と腰を持ち上げられ、ズボンと下着が下げられる。
 下を脱がされて、一瞬恭介の手が離れた隙に、慌ててベットの上の方へずり上がる。
 辺りの状況が分からないから、下手には動けない。それでも逃げようとじりじり下がっていると、足首を掴まれた。
 そのままシーツの上を引きずられ、再び恭介の腕の中に抱き込まれる。
「逃げるなって」
「っや、だ…!」
 恭介の手が腰を撫でて、下肢へと移動していく。
 さっきちょっと悪戯するだけって言ったじゃないかっ!
 思わず抗議の声を上げる。
「恭介っ!…さっき、ちょっと悪戯するだけって…!」
「―――。悪ぃ」
 耳元に、恭介の唇が押し当てられる。
「やっぱそれ、撤回な」
「なっ……んんっ」
 抗議の言葉はまだ続くはずだったけれど、吐き出す前に、熱く湿ったものに口を塞がれてしまう。
 僕の口の中を、傍若無人に恭介の舌が動き回る。
「ん、んっ…ん!」
 何か――いつもより、強引な、気が…。
 キスの間に、膝裏を持ち上げられて、足を左右に開かされる。恭介の身体が割り込んできて、僕の身体に圧し掛かる。
「ん、う…――いっ…!」
 乱暴な手つきで前を擦られて、一瞬だけ痛みが走った。
 な、に…?やっぱり――いつもと、違っ……!
「きょうすっ…んんっ」
 きつく舌を吸い上げられて、言葉も継げない。圧し掛かって来る身体を押し戻そうにも、両手は縛られて使えない。
 暗闇の中、いつもと違う恭介の行為に、恐怖心が湧く。
 何か怖いっ…!
「んっ…きょうすっ――待っ…!」
「――黙ってろ…」
 耳に、恭介の荒い吐息が掛かる。そのまま耳の中に舌を差し込まれて、背筋がぞくぞくと泡立った。
 口の中に恭介の指が入ってきて、唾液を塗すように口内を蹂躙してから、抜き取られていく。
 濡れた指が後ろに触れる。
「――っ!」
 そのまま何の警告もなく、指が押し入ってきた。何度か抜き挿しされる。
「く…んっ、は…!」
「指、増やすぞ」
 いつものなら余裕のある声が、なんだが妙に――切羽詰っているような。
 直ぐに指が増やされて、激しく中で動かされる。
 その合間に、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。
 やがて解すのも早々に、指が引き抜かれる。ほっと息を吐いた瞬間、耳朶に恭介の声が落ちてきた。
「…もういいよな?」
「え…」
 嘘っ…いつもなら、もっとちゃんと…!
 入口に猛ったものが押し当てられるのを感じて、喉が引き攣る。
「待っ…!」
「すまん…っ」
 短い謝罪と同時に、――熱い塊が、体内に無理矢理押し込まれる。
「んっあぁぁっ…ぅ、あ!」 
 開ききっていない秘所を抉じ開けられる…!
 苦し――い…!
「理樹っ…」
 余裕のない恭介の声がして。
 そのまま荒々しく、身体を突き上げられた。
「う、ぁっ…待っ、きょう…!」
「悪ぃっ…」
 身動きできない僕の身体を抱きしめて、恭介が腰を打ちつけてくる。乱暴に動かされて、後ろ手に縛られた腕に痛みが走る。
 けれどすぐに、そんな痛みなど気にしている場合ではなくなった。
 恭介に奥を抉られて、あっという間に僕の身体は、快楽に準じてしまう。
「ふ、うぁっ…きょうすけっ…!」
 揺さぶられるままに、嬌声が零れ落ちる。弱いところを突かれて、びくりと身体がのたうつ。
 だ――め……気持ち…いっ……!
「あうっ…ん、ぁっ」
「ココ、気持ちいいだろ…理樹」
「は、ぅ…いっ…!」
 目隠しされた暗闇の中では、恭介の声と、与えられる快感だけが全てで――。
 恭介にされるがまま、快楽に堕ちていく。
 普段なら気になる恭介の視線も分からない。
 いつの間にかすっかり起ちあがっていた前を握られて、荒々しく扱かれる。
「きょうっすけ…やっ…」
「イイ、だろ…?」
 荒い吐息で恭介が囁く。その言葉に――思わず頷いて。
「ん…い、い…!」
「理樹っ…」
 乱暴に揺すられて、すぐに限界へと昇りつめていた。
 や、だ、だめっ…!
 もうっ――。
「きょ…すけぇっ…」
「イきそうか…?」
「ん、うんっ…」
 口づけを受けながら、必死に頷く。昂ぶった身体はすぐにでも解放を求めていたのに、恭介の指が――根元を戒める。
「――もう少し、待ってろ」
「や…やだ、ぁっ…!」
「一緒に…っ…な?」
「はっ、ん…うぁ!」
 残酷な宣言をして、何度も深くまで恭介が突き入れてくる。
 や、だっ――もっ…イきた…!
 過ぎた快感は苦しくて、涙がにじむ。けれどそれは目隠しの布に吸い取られていった。
 やがて、恭介が噛みつくように口付けてくる。
 指が外され、同時に奥を抉られて――快感が、弾ける。
「っん、あっあぁっ…!」
「――理樹っ…」
 上擦った恭介の声を聞きながら、身体の奥に、欲望が放たれるのを感じていた――。
 
 
 
 後日、恭介が『愛を育む緊縛術』とか『HOW TO SEX 目隠し編』とか、良く分からないビデオを手にしている姿を見かけたけれど、――見なかったことにしようと思う…。
 
 
 
 
 
 

あとがき
 目隠しで後ろ手縛りで恭介に弄られちゃったら――そらもうエロエロしかなかろうっ…!と独断と偏見(…か?)で
 こんなものが仕上がりました…。え、えへ…?(笑って誤魔化…せねぇよっ)
 だって恭介が途中から暴走列車にっ……いえもう言い訳しませっ…私こそ変態だぁぁっ!
 ここここここんなんですがっ…謹んで唯様に差し上げますっ(大迷惑っ)え、もう…こんなんですがどうにでもなさってくださいませぇっ!

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