日曜日の朝早く。
「理樹、ちょっといいか?」
僕の部屋にやってきた恭介は、なんだかとっても深刻な顔をしていた。
「すまん、理樹。何も聞かずに、これを着て俺と飯食いに行ってくれ」
僕の目の前に差し出されたのは――女子の制服。
「………。あのさ、恭介…」
「聞くな」
「いやいやいや、出来れば聞かせてほしいんだけど?ていうか、理由なく着る方が嫌だよ」
「…話したら、着るか?」
う、そう来たか…。
「理由如何かな」
「そうか…。ま、どっちにしろお前以外に頼む気はないからな。――実はこいつが理由だ」
恭介は折り畳んだチラシを僕に手渡す。
「ええと…?」
チラシを開いてみる。
『カップル限定大食い企画!毎週日曜当店特製大盛ラーメンを十分以内に食べ終わったら料金は全てタダ!
更に幻のヌクレボウォッチも進呈致します。皆様奮ってご参加下さい!
(尚、ヌクレボウォッチは数に限りがございますので、予めご了承下さい)』
――何て色気のないカップル企画なんだっ!ていうか、この企画、カップル限定にする事自体既に間違ってるよね!?
しかもヌクレボウォッチって!
どこの世界にこんな企画に自分の恋人を誘う人がいるんだろう…。
「頼む理樹!お前にしか頼めないんだよっ」
ああ、ここにいた…。いやまぁ…いいけどね、恭介だし。
ていうか、凄い真剣だ。そんなにヌクレボウォッチ欲しいんだ…。
何だか、その子供っぽさに呆れるやら笑ってしまうやら。
もう、ホントに仕方ないなぁ…。
「ダメか?理樹」
「――今回だけだよ?」
「マジか!それでこそ俺の理樹だぜっ!」
「うわっ…ちょ…!」
恭介に抱きつかれながら、そんなに喜んでくれるなら、まぁいいか、なんて思った。
――とまぁ、そんな訳で。……僕は現在、ミニスカートを穿いていたりする。
これだけ短いと男物の下着は穿けないから、当然…女性用の下着だったり…うう、恥ずかしい。
因みに着替えは恭介の部屋でした。僕の部屋だと真人もいるしね。
それにしても――。
「あのさ、恭介。僕、何かおかしい…?」
「いや、全然」
恭介はきっぱり否定してくれた。けど、なんだかさっきから、擦れ違う通行人の視線が…ちらちらと突き刺さってくるんだけど。
き、気のせいかな…?
「ところで恭介、お店ってどこ?」
「ああ、すぐそこだ。その角の――」
「…閉まってない?」
「何っ!?」
二人で店の前に行ってみる。そこには『本日休業』の文字。
個人経営の小さなお店にはよくある事だけど、タイミング悪いなぁ。
ふと横を見ると、恭介が落ち込みまくっていた!
「すまん…お前にそんな格好までさせたってのにっ…!」
「いやいや、仕方ないから!そんな気にしないでよ。また次来ようよ、ね?」
「いいのか…!?そうか…じゃ、また来週も頼むな、理樹!」
「うんっ」
――ってあれ…?何か流れでつい頷いちゃったけど…またこの格好する訳!?…ああぁぁぁ…。
「ん?どうした、理樹」
「や、何でもないけどさ…。え、と、じゃあ帰る?」
「――いや」
恭介は、一端言葉を区切って僕を見下ろしてから、言った。
「どうせなら、このまま少しデートしないか…?」
恭介と二人で、手を繋いで繁華街を見て回る。
知り合いに見られるんじゃないかとドキドキしたけど、ミッションみたいでちょっと楽しい。
今さっき恭介が、アイスクリームを買いに行ってくれた。
「チョイスは俺に任せろ」なんて言ってたけど…何を買ってきてくれるんだろう。
楽しみだなぁ。
何だか顔が緩んでしまうのを取り繕いながら、壁に寄り掛かって恭介を待つ。そこへ――。
「ね、彼女一人?」
突然そう声を掛けられて、僕は思わず辺りを見回した。周りには誰もいなくて、どうやら僕にかけられたものだと気付く。
「君、かわいいね。今時間ある?」
「え、と…あの…」
何だろう、この人。宗教の勧誘かな?
「すいません、ちょっと時間は…」
「でも一人でしょ?」
「や、あの…」
「ご飯でもどう?奢るからさ」
馴れ馴れしく肩に手を置かれる。
え…何これ…もしかして――ナンパっ…!?
でも僕男……って、ああ!今は女の子の格好してたんだったっ!
「大丈夫、ホントにご飯だけだからさ…」
「ちょっ…!」
肩を掴まれて、ついでに腕まで捕らえられそうになった――瞬間。
「おっと、悪いな。俺の連れだ」
「恭介っ」
僕に向かって伸ばされた腕を、恭介が寸前で掴んで止めていた。
「こいつに何か用か?なんなら俺が聞くぜ?」
飄々とした顔で言いながら、恭介が手に力を込める。ぎり…と軋むような音がして、相手の顔面が蒼白になる。
恭介が腕を離してあげた後は、相手は物も言わずに逃げ去っていった。
「あ、ありがと、恭介」
「気にするな。まぁ…お前が可愛いのは、別にお前の責任じゃないからな」
「え…」
「それより、アイス食うだろ?溶けちまう」
器用に、片手でダブルアイスを二本持っていた恭介は、その内の一本を差し出してくる。
何か結構恥ずかしい事を言われた気がするんだけど――まぁ、いいか…。
コーンを受け取って、早速アイスを舐めてみる。色んな果物の入ったフルーツアイスだ。
「ん、美味しい!」
「おっ、マジか。理樹、一口くれよ」
「あっちょっと…!」
「んー美味いっ。俺のも中々イケるぜ?ほら」
「え…あ、じゃあ…一口」
かわりばんこに相手のアイスを食べながら、また二人で歩きだす。
腕時計のコーナーを覗いてあれが似合うとか似合わないとか、靴を見てどこそこのが欲しいとかそんな話をして。
そうして時間はどんどん過ぎて――あっという間に、寮に帰る時間になっていた――。
恭介の部屋に着いたのは、もう夜だった。
流石にこの格好でクラスメイトとかには会いたくないから、行き同様、人に見つからないよう注意しながら恭介の部屋に無事到着。
あとは、着替えて自分の部屋に戻るだけ――なんだけど……。
「恭介…何…?」
じっと恭介に凝視され、リボンに手をかけたまま僕は中々先に進めない。
うう…着替え辛いんですけどっ!
「あのさ……出来れば向こう向いてて貰えると――」
「なぁ理樹。――俺が、脱がせてやろうか?」
「…はっ!?」
目を点にした僕に、恭介が近づいてくる。
「ちょっ…いいよっ自分で脱げるからっ」
「遠慮すんなって」
「してないしてないっ」
「じゃ、まずリボンな」
ひょい、と喉元に伸びてきた手が、シュルリとリボンを解く。次いでブレザーのボタン。
あっさり上着の前を開かれ、ワイシャツへと恭介の指が掛かる。
ぷちり、ぷりち、と小さな音を立てて、ボタンが外されていく。
「恭介っ」
「どうした」
ど、どうしたって…!
「自分で出来るからっ…!」
「そう言うな。――脱がしたいんだよ、俺が」
「っ」
耳元で囁かれて、ついでのように耳朶を食まれる。
ワイシャツのボタンが外されて、胸を恭介の手が這う。脇腹や背中も、撫で回されて息が上がってくる。
それから、手が下へ降りて太腿を撫で上げ、――スカートの中に入り込んできた。
「…恭介っ…」
「ん?」
「ど、どこ触ってるんだよっ…!」
「嫌か?」
「そ、そういう問題じゃっ…」
恭介の手がスカートの中で動き回る。お尻を揉んだり、足を撫で回したり…。
太腿の内側に手が差し込まれて、それが上へと移動してくる。
あ――触…られ、る――。
「んっ…」
ゆるく前を撫でられて僕が息を飲むと、恭介は目を細めた。
「可愛いなぁ…理樹」
「――ぁっ…」
下着に、指がっ…!
そのまま、恭介の手でずり下ろされて、丸まった頼りない布は、中途半端に足の付け根の少し下で止まった。
剥き出しになった僕のものを、恭介が手の平で包み込む。
「んっ…あ…」
そっと擦られて、身を捩ってしまう。耳元で、低く恭介が笑う。
「…感じやすいな」
「そ、…なっ…」
「だってほら…もう涎が出そうだぜ…?」
「あうっ…!」
先端を指で抉られて、身体が跳ねる。
そんな事っ…されたらっ…!
「んっ…やめ、てっ…」
「やめて欲しいのか?」
「はっ…ぁ…」
「やめてって言うなら…やめてもいいんだが?」
そう言いながら、恭介の手は休み無く僕の身体を煽っていく。
「なぁ理樹。――どうする?」
「っ…ふ、くっ…」
意地悪だ…!こんなにしておいて、やめてもいい、だなんてっ…!
「理樹はやめて欲しいんだろ?」
「っ…」
「――そっか。なら…やめてやらないとな?」
「ぁ……!」
昂ぶった熱から手を引かれて、思わず縋るような声が漏れる。
恭介が、目を細めて僕の顔を覗き込む。
「ん?どうした、理樹」
「あ、…の…」
「何だよ。言ってみろ」
「っ…きょうすけっ」
だって――そんな事っ…!
でも恭介は、僕を見下ろすばかりで――。時々擽るように指先で触れられて、益々身体は熱くなる。
も、…や、だ……!
「んっ…恭介っ…」
「…どうした」
「――…し、て…」
「何を」
「っ!そん、な……い、意地悪だよっ…!」
「何だ、意地悪して欲しいのか」
「違っ」
弧を描く唇に、慌てて首を振ったけれど、遅かった。
恭介はひどく楽しそうに笑う。
「そっか。じゃ、たっぷり虐めてやらないとな…?」
「はぅっ…く、ん…!」
ぐっと前を握られたまま全身への愛撫が始まって――。
その後僕は、言葉通り、恭介に虐められ続けることになった…。
勿論、次の週――僕は恭介とラーメンを食べになんか行かなかった。
当たり前だよねっ!?
あとがき
女装理樹と恭介のデート+最後はエロで……という事で、こんなん出まし、た…!や、や、二つを詰め込むのは中々難しくっ…!
デートはベタな展開で…。そして最後はちと温めで…逃げました…(こら)すすすすみませっ…!
え、と、こんなんでよろしければ謹んで詞亜様に捧げますっ…!