君と僕の軌跡・蜜月編5

 何で――こんな事になったんだろう…?
 頭に浮かぶのはそんな疑問。でも…答えなんか出ない。
「んっ…ん…!」
 口内で激しく蠢く舌に翻弄されて、思考が白く溶けていく。
 逃げようとした肩を掴まれて、首の後ろに手が回って――最早逃げられない状態で、口の中を蹂躙される。
 舌と舌が絡み合って、耳に届く水音。
 身体が震えて、座っていた椅子がキシリと音を立てる。
「んんっ…ぁ…」
「――理樹」
 恭介が、蕩けるような声で僕を呼ぶ。うっすら目を開くと、恭介は妖しい色を帯びた目で、僕を見つめていた。
 机の上に置いていた手に、恭介の指が絡む。
「きょうすけ…」
「ん…?――どうした…」
「待っ、…んっは…」
 絡んできた指が、手の甲を滑って、制服の袖をのぼってくる。
 その間も口付けは途切れることなく続く。
「は、ぁ…待っ…て」
「理樹…」
「だ、め…ここっ…じゃ…」
 懇願するように、キスの合間に辛うじて言葉を紡ぐ。
 今僕と恭介がいるのは、放課後の――誰もいなくなった教室。
 ついさっきまでは、まだ数人生徒も残ってて、僕は恭介に、今日の抜き打ちテストの答え合わせに付き合って貰っていた。
 真人達は、テストの答え合わせをしたら落ち込む、とか言って先に寮に戻ってしまった。
 それで、恭介と二人隣合ってテストの解答をしていたのだけれど――。
 残っていた最後の一人が五分程前に教室を出て行って、そうしたら直ぐに…恭介の手が伸びてきた。
 その手の意味が分からなくて、されるがままに任せていたら顎を捉えられ、拒否なんてする間もなく唇が重ねられた。
 それからずっと…こんな風にキスされ続けてる…。
 でも、確かに今は誰もいないけど――だって…学校で、それに教室だ。いつ誰が来てもおかしくない。
 こんなトコ、誰かに見られたら――。
「ふ…ぁ…恭介ってば…」
「…黙ってろ」
 短く告げて、恭介の手が――机の下に潜り込む。太股を撫で上げる手付きに、ぞくりと背筋が泡立つ。
 思わず身体が跳ねて、唇の先で恭介の笑う気配。でも――駄目だ。こんなトコで。
 拒むように足を閉じる。
「理樹…。こら、足開け」
「あ、あのねぇっ!こんなトコで何する気さ」
「ん?そりゃあ…イイ事、だろ」
 あけすけな物言いに、カッと頬が熱くなる。その間も恭介の手は太股を撫でてくる。足と足の隙間に手を差し入れて――。
「ちょっ……ん、きょうすけ!」
「ほら、素直に言う事開けって。そしたらご褒美やるから」
「やめっ…――んっ…!」
 上げようとした抗議の声を、熱い唇で塞がれる。恭介の舌が口の中を這いずり回って、背筋がゾクゾクと痺れるような感覚。
「ん、はっ…ぁ…」
 身体から――力が抜けていく。
「イイ子だ…」
「っ」
 閉じていたはずの足の力が緩んで、恭介の手が、大胆に太股を這い上がる。
 だ、めっ…!
「っ…――んぁっ…」
 のぼってきた手に中心を柔らかく撫で摩られて、思わず声が漏れる。
 も、何でこんな事するのさっ…!ホントに、駄目だろっ…!?
「きょうすけっ…んんっ!」
 また口を塞がれた。只でさえ長いキスで息が上がっているのに、恭介の手は容赦なく僕を嬲ってくる。
 益々呼吸が上擦って、舌と舌の触れ合う濡れた音が泣きたくなる程恥ずかしい。
 震える吐息の中、カチャリ、と静かにベルトのバックルが外される。
 ちょっ…それはマズイっ…!
「や、やめてよっ…!」
 慌てて恭介の肩を向こうへ押しやろう腕を伸ばしたけれど――。
 強引にズボンの前を開かれる。
「っ…や、めっ…」
「やめていいのか?こんなになってるのに、な」
 素早く中に入り込んだ指が、直接絡みついてきて、身体が慄いた。
 思わず恭介の腕に縋りつく。そのまま広い胸に抱きこまれて、身動きもままならなくなってしまう。
 僅かに動く手で、恭介の制服を掴む。
「く、んっ…」
 ズボンの下に潜り込んだ恭介の手が、先端を撫でて、滲んだものを塗り広げる。
 滑りのよくなった手にぬるりと扱かれて、羞恥と緊張に全身が熱くなる。
「やっ…やっ…」
「ほら…音、凄いぜ?」
 くちゅり、と下肢から聞こえるそのいやらしい音に、唇を噛み締めた。
 足が小刻みに震えて、カタカタと椅子が軋んだ悲鳴を上げる。
「だめ…って、言っ」
「可愛いな、――理樹」
 耳元に落とされる、低くて甘い声。目尻や頬、首筋に恭介の唇が落ちてくる。
 抱き締められたまま、身体の中に熱が篭っていく。
 心臓の音が五月蝿くて、熱に浮かされたように呼吸が苦しくなる。恭介の匂いだけに包まれて、理性が溶けていく。
 どうしよう…抵抗、出来なくなるっ…。
「ん、はぁ…きょうすけ…」
「すげぇエロい顔だな」
「そ、んな…ぁ!?」
 不意に身体を椅子から引き上げられる。恭介の腕が、幾分乱暴に机の上の筆記用具を床へと払い落とした。
 思いの他大きな音に身を竦ませてしまう。
 同時にここが教室で、いつ誰が来るかも分からない場所だと、朦朧としていた理性が警告を告げる。
 熱の篭る気だるい身体のまま、後退さろうとした所で、腕を掴まれた。
「こら。…逃げるな」
「な、何するんだよっ」
「悪ぃ。――やっぱ我慢出来ねぇわ」
「っ…だ、駄目だよ、こんなトコで…!」
 拒もうとした瞬間、腕を強く引かれて机の上に、うつ伏せに上体を押し倒される。
「やめっ」
「――理樹」
 肩を押さえつけられて、起き上がる事も出来ない。背中から圧し掛かって来る気配。
 耳の後ろをぬめる感触が這っていく。
「ぁっ…」
 びくりと身体が震える。
 ベルトも前も開かれたズボンの後ろに、恭介の手が掛かる。抵抗する術もないまま、中途半端に曲がった膝まで、下着ごと一気に下げられた。
 肌が直接冷たい外気に晒される。
「恭介っ」
「――中々凄い眺めだな」
「や、…!」
「何だよ、もう…ヒクついてるな」
 つ…と恭介の指が腰を伝って、後ろの秘口に触れる。
 嘘、ホントにここでするのっ…!?
「きょうすけっ…だめっ…」
「いいだろ?…あんまり駄目とか言われると、傷つくんだが」
 優しい声でそんな事を言う恭介の指は、だけど容赦がない。
 くぷりと身体の中に潜り込んできた指が浅い位置を探って、そのまま弱い所を抉る。
「っ…んぁっ…!」
 勝手に嬌声が漏れ出る。
 指が奥に入り込んで、身体を揺するように抜き差しされた。
「んっ…んっ…ぁ」
 机の角に掴まる指が震える。
 う、ぁ…やめて…そんな、に掻き回したらっ…!
「んんっ…ぁ、ぁあ!」
「ここ、好きだよな」
「は、く…」
「――指、二本入ってるの分かるか?」
 ぬち、と音を立てて指が押し入れられる。
 教室の片隅で、こんな事態になっている意味が分からない。
 だけど与えられる快感に、目が眩む。机がきしきしと鳴っていて――。
「理樹…そろそろ、な…?」
 熱っぽい囁きと一緒に、熱い塊が背後から押付けられる。
 じわりと秘口を押し開く動きに、身体が強張る。
「っ…――!」
 机に頬を当て、唇を噛んでその瞬間の異物感を耐えた。
 ずるずると体内に入り込む熱。声も出せない。
 はっ、はっ、と短い吐息だけが漏れる。
 生理的に滲む涙を、身を屈めた恭介の唇が吸い取っていく。
「理樹――動くぞ」
「待っ…ぁ!」
 腰を掴まれて、強く体内を突かれる。余裕のない――容赦のない、動き。
 縋りついた机は頼りなく軋む。
 身体を揺すられるたびに、そのリズムに合わせるようにあがる、悲鳴みたいな嬌声。
 自分の声なのに、自分の声じゃないみたいだ。
 机の足がリノリウムの床と摩れる音。
 放課後の誰もいない教室で、恭介に貫かれている事実は、どこか現実離れしていて。
 見慣れたはずの場所に、こんな淫らな行為を持ち込んでしまった事が、罪悪感と…奇妙な高揚を生む。
 背徳心という奴なのかも、なんて事を頭の片隅で考えられたのは、だけど最初だけだった。
 次第に激しくなる動きに、何も考えられなくなって。
「あっ…あぁっ…!」
「可愛いな…理樹」
 恭介がいつものように甘く囁いて、耳を柔らかく噛んでくる。
 目元と唇の端にも、何度も何度もキスが繰り返される。
 凶暴で容赦ない下肢の動きとは裏腹に、その行為は酷く優しい。
「理樹…」
 何度も囁かれる名前。熱に浮かされて、涙の滲む視界。
 机の角を握り締める僕の手に、恭介の手が重なって、握りこまれる。
「っ…あぁ、ん…きょう、すけ…」
「理樹…」
 感じる所を的確に抉っていく動きに、身体が快楽に溺れていく。
「んっ…だ、めっ…きょうすけっ…も、ぉ…!」
「…イきそうか?」
 恭介が、片手を前に回してくる。
 立ち上がったものをゆっくりと包まれ、数度ゆるく擦られただけで――快楽が弾けた。
「っ…っっ…!」
 びくびくと震える背中を、恭介の手が宥めるように撫でていく。
 パタパタと床に落ちていく白濁液。
「…イったな」
 目を細めてそんな事を言う恭介に、思わず恨みがましい視線を送る。
 だけど恭介には、そんなの全然効果なんてない。寧ろ、逆効果、で――凄く嬉しそうな顔をされてしまった。
「何だ、睨む程気持ち良かったか?」
「ば、か…」
「けど――悪いな。もう少し付き合え」
 どこか楽しそうに、そして僅かに乱れた吐息で告げて、弛緩した僕の身体を、恭介が突き上げてくる。
 その熱に翻弄されながら、理性も意識も甘く蕩けていった。



 僕が服を整えている間に、恭介が汚れてしまった床を拭いたりして。
 帰り支度が出来た所で、僕は、涼しい顔をしている恭介を思いっきり睨んだ。
「もっ…恭介の馬鹿っ!」
 べしべしとその背中を叩く。
「っと。悪かったって…!」
「誰か来たらどうする気だったのさっ!」
「いや、そこは大丈夫だ。午後からワックス業者が入るとかで、今日は全校生徒強制退去だからな」
「え…?」
 あっさり告げられた台詞に、呆然となる。
「ま、二年の教室に業者が入るのは多分明日になるだろうからな。それまでは人は来ない。…何だ、校内放送もかかってたろ。気付かなかったのか?」
 そういえば、帰りのホームルームで、担任が今日は残らず帰る様にとかなんとか言ってた気もする…。
 放送の方は、テストの答えあわせに必死で聞いてなかったし…。
 な、何だよ…そうならそうと…!
「どうした?」
「そ、そういう事は先に言ってよ」
「……ふぅん?」
 二、と恭介が妖しげな笑みを浮かべる。
「じゃ、…大丈夫そうならまた教室でヤるか?」
「!や、やらないよっ!」
「けど、いつもより感じてたろ」
「そんな事ないっ!」
 言い様恭介の腕をぺしりと叩いてから、カバンを胸に抱く。
 傍らに立つ恭介は、余裕の涼しい表情。
「理樹」
「何」
「…部屋戻ったら、またな?」
「っ!」
 腰を抱き寄せられて、髪にキスが落とされる。
 抗議しようと見上げた顔は、何だかとっても楽しそうで。
 結局何も言えず、僕は――赤くなる顔をカバンで隠すしかなかった。






あとがき
 …エロがね、書きたくなっ…(黙れ)
 暫く書かないと、何か爛れたのが書きたくな…(だから黙れ)
 恭介って一度箍が外れると、抑制が効かないというか…。教室とか部室とか関係なく致してしましそうで。
 しかも、理樹がまた快楽に弱くて弱くてね…!ついね!蜜月編はまぁ…基本えろなんで…すいませっ…!
 若いなぁ、高校生…色んな意味で。

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