君と僕の軌跡・蜜月編6

「少年。次はもっと短いスカートはどうだ?」
「姉御姉御。こっちのスリット入りはどですかネ?」
「…スリット…いいと思います」
 いやいやいや全然良くないですけど。
 今現在、場所は空き教室。そして例によって例の如く…僕の格好はまた女子の制服だ。楽しそうに服を広げているのは、来ヶ谷さんと葉留佳さんと西園さんの三人。
 どうして僕、この三人にすぐ騙されるんだろうか。
 今朝方、葉留佳さんが珍しく妙にしおらしい様子で相談があると言ってきたから、じゃあ放課後にと約束した。まぁ、ここじゃなんだから空き教室にでも、なんて強引に引っ張って行かれた時点で気付くべきだったとは思う。
 途中からおかしいなとは薄々感づいてたんだけど、まさか、開いたドアの向こうに来ヶ谷さんと西園さんがいるとはね。さすがに予想しなかった。
 勿論その先客二名を視界に収めた瞬間に逃げ出そうとしたよ?したけど…来ヶ谷さんがいた時点で無理だよね…僕じゃあさ…。
 その後も一応抵抗はしたけど、無理矢理服を剥かれそうになって、それよりは自分で着替える方で妥協した結果、現在に至る。
 これが昼休みなら、長くても一時間でチャイムという救いがある。でも今は放課後だ。下校時間までなんて事になったら、一体何時になるんだろう?
 うう、いい加減帰りたい。
「うむ、では少年。次はこれを着てくれ」
「やはぁ…これは別の意味で色々凄いかも」
「…似合うと思います、直枝さんなら」
 まだ何か着るの?
 来ヶ谷さんが、僕の目の前に服を広げる。フリフリヒラヒラのリボンとレースてんこ盛りの所謂ロリータファッションというか…ってこれって小毬さんの私服じゃ!?
「ちょっ…その服って小毬さんのでしょ!?」
「いや。それよりワンサイズ大きいものをちゃんと少年の為だけに購入してきてやったぞ。感謝するがいい」
「ダイジョブダイジョブ!心配しなくても理樹くん華奢だから、このサイズで十分だと思いますヨ?」
「…ある意味女の敵です。――ですが、いいと思います」
 いやいやいや!!だから良くないしっサイズの心配してないしっていうかわざわざ僕の為って!
 大体、いくらなんでもそのフリフリを着るのは嫌だ。一応僕にだって男としての面子ってものがある。…いや、こんな格好で言っても説得力ないかもしれないけど。
 来ヶ谷さん達は笑顔で僕にフリフリドレスを押し付け、着替え終わったら呼べと残して教室から出ていく。着替えるトコは見ないでいてくれるという配慮らしいけど…どうせならそもそも女装を強要する事自体を配慮して欲しい。
 まぁ…無駄な願いだけど。
 それより、この服どうしよう?僕は別に女装が好きなわけでもなんでもないけど…これ着た写真とか撮られた日には、もうどんな言い訳も通用しない気がする…。
 ――よし。逃げよう。
 二階だけど…なんとかなるよね。…多分。
 音を立てないようにこっそり窓際に移動して窓を開ける。
 う…高いな…。ええと…確か後ろの棚に古いカーテンがかなりたくさん置いてあったはず。こういう時、物置と化してる空き教室は結構便利だ。
 これ繋げば何とかいけるかも。
 よし……。


         *


「葉留佳君。少年は見つかったか?」
『それが中々…』
「そうか。見つけたら深追いせずにすぐ連絡してくれ。…私が捕獲する」
 ニタリ、と音のしそうな凶悪な笑顔で、来ヶ谷さんが携帯を切る。その様子を、僕はすぐ近くの廊下の角から伺っていた。
 あの後逃げたはいいけれど、勿論すぐにバレた。その結果――眠っていた来ヶ谷さんの闘争心とやらに火をつけてしまったらしく、なんだか執拗に追いかけられている。
 もう一時間は経つのに、諦めてくれる気配は一向にない。下校時間まではなんとか逃げ切らないと…。
 来ヶ谷さんは僕がいるのとは反対方向へ去っていく。よし、そのまま行ってくれれば――。
 だけど、そんな僕の思惑に感づいたかのように、いきなり来ヶ谷さんが立ち止まる。
 マズイっ…。こっちに来るか?どうしよう…こっちの奥は、確か西園さんがいたはずだし、間違えば鉢合わせる。近くに空き教室はあるけど、入ったら袋の鼠って事態にもなりかねない。
 まだ来ヶ谷さんは迷うようにウロウロしてるけど…これはもう、西園さんに見つかるの覚悟で走って逃げるしか…!
 そう思って後退した瞬間――いきなり背後から腕が伸びてきた。
「っ…んむっ…!?」
 問答無用で口を塞がれて、身体もがっちり抑え込まれて、近くの空き教室に連れ込まれる。
 うそっ…なに、誰…!?
「んっ…んんっ…!」
「しっ!俺だ、理樹」
 え、この声って恭介!?
「頼むから暴れるな。見つかりたくないんだろ?」
 その言葉にコクコクと頷くと、漸く腕の拘束が緩む。よ、良かった…恭介か。
「どうしてここにいるの?」
「来ヶ谷達の動きがおかしかったからな。ちょっと探ってみようと思ったら、お前を見つけただけだ」
「そっか。でも助かったよ」
「その格好、またあいつらだろ?」
「うん…今逃げてるトコなんだ」
 恭介が一緒なら逃げきれるかもしれない。
「――マズイな」
「え?」
「こっちに向かってきそうだ」
 携帯片手に呟く恭介。そこには防犯カメラの映像のように、来ヶ谷さんの姿が。
「恭介、それ…」
「ん?ああ、学校の防犯カメラをちょっと改造してな、無線機付けたんだよ」
「なるほど…ってそれ犯罪じゃ!?」
「固い事言うなって。それより――」
 恭介は辺りを見回して、教室隅のロッカーに目をとめる。
「よし、あそこに隠れるか」
「え、でも…万が一見つかったら逃げられないよ?」
「大丈夫だ。来ヶ谷の様子だと、俺達がここにいる事は分かってない。その辺の空き教室を一応確認しに来たってトコだろ。なら、わざわざロッカーの中まで確認する可能性は低い」
「そ、そっか…」
 さすが恭介。この状況下で、あの来ヶ谷さんの行動を冷静に分析するなんて…。やっぱり普段兄貴風吹かせるだけはあるよね。これなら安心だ。
「――まぁ勘だが」
「勘なんだ!?」
 一気に不安になった!
「まぁまぁ。取り敢えずさっさとロッカーに隠れようぜ?…敵に追われ、ロッカーに隠れる恋人達、か…。ヒュー燃えてきたぜ!」
「いやいやいやっ」
 しかも思いっきり子供な心理だった!
 ほ、ほんとに大丈夫かな…。
 小声で話しながらロッカーを開く。幸い中にはモップが一本だけで、どうにか二人なら入りそうだ。
 恭介が先に入って、僕は後から入る。…うわ、狭い…。
「ほら理樹、ちゃんとくっつけって。でないと入らないぜ?」
「う、うん…」
 分かってるけどさっ…。恥ずかしいっていうか…!
 向い合うと顔とかが近くなって変に緊張しそうになる。僕は慌てて恭介に背中を向けた。途端に腕を回されて、後ろからしっかり抱きしめられた。
「ちょっ…恭介、くっつきすぎっ…」
「こら、あんま暴れるな。じゃ、ドア閉めるからな」
 恭介が内側からロッカーを閉める。目の前でパタンと金属の板が音をたてて、途端に周りは暗くなる。上部のわずかな隙間から光が漏れ入るだけだ。
 緊張する僕の耳元に、恭介が「大丈夫だ」と囁く。背中からじわりと伝わってくる恭介の体温。
 狭いロッカーの中で密着する身体。頬に自然と熱が集まる。
 うわ…何か別の意味でどきどきしてきた…。
「…どうした、理樹。…緊張してるのか?」
「え、や、あの…」
「――緊張、解してやろうか」
「うん…ってどうやって?」
「そりゃま、色々と方法はあるが…。そうだな、一番手っ取り早いのでいくか。――声、出すなよ?」
 そんな意味深な台詞と共に、恭介の右手が身体の上を伝い降りていく。
 え、なに…?何するつもり――。
 右手がスカートの上を通り越して、剥き出しの太腿へ。
 ――ってなにするつもりだよっ…!?
「きょうっ…ぁっ…!」
 滑るように内股に入り込んで撫で上げてくる手付きに、びくりと全身が強張った。
「こら、静かにしろって」
「っ…そ、んなっ…」
 だったら変な事しないでよっ!?うわ、ちょっ……!
 狼狽する僕を無視して、恭介の手が内股を這い上がってくる。う、嘘だよね?こんな所で…そんなっ…!
「――理樹」
「っ…」
 耳朶にかかる吐息と、低い声。下肢を撫でるように這う手。
 全身がぞくりと総毛立って、熱が上がっていくような感覚に襲われる。指が少しずつスカートの内側に入り込んできて、そのまま中心に近づいてくる。
 どう、しようっ…マズイよ、そんな触り方されたらっ…。
 やだよっ…や、めて…!
「…んっぅ…」
「何だ、もう反応してるのか」
「っ…そ、んな事、ないっ…」
「ふうん。そうか?だったら、――これは何だろうな?」
「あっ…」
 指先で擽るように下着の上から撫でられて、思わず声が出る。途端に恭介の左手が僕の口を塞いだ。
「っと…コラコラ。声出すなって言ったろ」
「んんっん」
 そんな事言ったって…!
「おっとここまでだな。ほら…漸くお出ましだ」
 ガラリ、と教室のドアが開く。入ってきたのは来ヶ谷さんだ。ロッカー上部の隙間から、辛うじて姿が確認出来る。
 来ヶ谷さんは、辺りを見回して首を傾げた。
「ふむ…誰もいない、か。物音がしたと思ったんだが…」
 呟きながら教卓の方へ近づいて、下を覗き込んだりしてる。だ、大丈夫かな、このロッカー…。
 緊張しながら来ヶ谷さんの動向を見守っている最中、不意に、スカートの中で手が動きだす。
 ええっ!ちょっと…!?
「っ…」
 スカートの下を手が弄ってくる。口は塞がれてるけどでもっ…!恭介の手を抑えようとしたけど、震えて力が入らない。
 物音を立てちゃいけないという気持ちも手伝って、結局恭介の傍若無人を許すしかなくて。来ヶ谷さんが教室の窓際に寄っていくのを視界の端に収めながら、恭介の手に翻弄される。
 一度下着の上から形をなぞった手が、今度はにじり寄るように布の隙間から入り込んでくる。直接肌に触れてくる指に、息が上がった。
 や、だよ…こんなっ…事……。もし来ヶ谷さんに見つかったら…!
 でも、こっちの内心なんかお構いなしに、恭介の手は悪戯を続ける。下着の下に侵入した手が、もう勃ちあがっていたものを掴む。
 ゆるく上下に擦られて、息を飲む。
 ちゅ、と音を立てて耳裏に落ちてくるキス。
 だ、ダメ…来ヶ谷さんまだいるのに、これ以上はっ…!
「っ…ふ…」
 荒くなっていく吐息がやけにうるさく聞こえて、来ヶ谷さんにまで聞こえてしまうんじゃないかと、緊張と不安で身体はがちがちだ。
 恭介緊張解すって言ったのにっ…嘘つきだ…!
 来ヶ谷さんがこちらに近づいてくると、恭介の手が流石に止まった。だ、だけど――この状態でロッカーを開けられたら…!
 来ヶ谷さんは、教室の中程まで歩いてきて――。
「…気のせいだったか」
 あっさりとそう言った。興味を失ったようにさっさと踵を返し、そのまま振り返る事もなく前のドアから出ていく。
 後には静まり返った教室。
 よ、良かった…バレなかった…。
 ほっとしたのも束の間――。
「んんっ!?」
 突然手の動きを再開されて、思わず身体がビクついた。口は相変わらず塞がれたまま、幹を上下に扱かれる。
 ど、してっ…!
「…んっ、んぅ…ん!」
「来ヶ谷の事だから、もう少し隠れてた方が安全だが…このままじゃ辛いだろ?」
 一回イッとけ、とそんな勝手な事を耳元で囁かれる。な、なに言ってるのかなこの人っ…も、しなくていっ…!
「安心しろ、理樹。口なら塞いどいてやるから」
「んむっ…ふ、…ぅ!」
 そ、それ安心って言わないよっ…!
 でも勿論文句の一言も言えないまま、下着を中途半端に下げられて、飛び出したものを恭介の手が掴む。狭いロッカーの中で、しかも物音は立てられないから、ロクな抵抗も出来ない。
 慣れた手つきで扱かれれば、あっという間に熱は上がって、身体は素直に快楽を訴える。
「もうすっかり濡れてるな」
「っ…ぅ…」
「先っぽとかいじられるの、好きだろ…?」
 ほら、と言って恭介の指が先端を抉るように押し付けられる。途端に、背筋に電流が走る。
 や、だよっ…そんなにされたら…!
「ふっ…く、…んんっ…」
 ぐりっと撫でながら、擦られる。我慢するな、だなんて言いながら、恭介はまるで宥めるように、眼尻や耳朶に唇を落としてくる。
 優しい声音とは裏腹に、手の動きはどんどん激しくなって、追い詰められて。
「っ…――ん、うっ…!」
 びくびくと勝手に身体が震える。
 駄目だよっ……出ちゃう、からっ…!こ、んなトコで……やだ、やだよぉっ…!
「理樹…?――我慢してるのか?」
「ん、んんっ」
「――そうか。へぇ」
 どうしてかちょっと意外そうな声。
「こういうのが好きとは知らなかったな」
「んんっ!?」
 ちょっと待ってよ!な、なんでそんな話に!?好きって…なんで!?
「終わらせたくないから、我慢して引き伸ばしてるんだろ?悪かったな、気づかなくて。俺もちゃんと協力してやるから、――口、自分で塞いどけよ?」
「え、あっ…?」
 不意に僕の口を塞いでいた手が外れて、次いでその手がスカートの下に潜り込む。
「こうされのが――いいんだよな?」
「あうっ…!」
 片手が根元を押さえて、もう片方の手が幹を擦りたててくる。襲ってくる痺れるような快感に、僕は慌てて両手で口を塞ぐ。
「んんんっ…ぅ、…は、うっ…」
 だ、だめっ…や、めてっ…!
 どんなに口を塞いでも、漏れる吐息が殺せない。
 身体の奥に熱はどんどん溜まっていくのに――押えられてて、快楽は堰き止められたままで。
 も、やっ…苦しっ…!
「――イキたくなったら言えよ?ちゃんとお願い出来たら、イカせてやるから」
 ぬるりと耳裏を這う舌が、音を立てて耳の中に入り込む。
「ふ、っ…く、……ぁっ」
 お願いって…!…第一こんなトコで、…出しちゃうなんて、やだっ…!
 やだけど…でもっ。
 ――で、もっ……!
「…可愛いな、――理樹」
 やっ…も、だめっ…!
「きょうすけっ…」
「ん?」
「ぼ、くっ…――も、だめっ…」
 震える指で、恭介の腕にすがりつく。
「…ね、がい…も、…!」
 耐え切れずに懇願した。
 耳元で恭介の薄く笑う気配がして――根元を離した手が、僕の口を塞ぐ。
「いいぜ、ちゃんとお願い出来たからな。ほら…いい子にはご褒美だ」
「ァっぅ…ん、んん――っ……!」
 強く扱かれて、下肢で欲望が弾ける。恭介の手に握られたまま、ロッカーの内側に…。
 汚し、ちゃった…服、も…。
 身体から一気に力が抜けて、くたりと崩れそうになった所を恭介に支えられた。
 漸くロッカーが開いて、よろける様に広い教室へ。恭介の支えが緩んだ途端、腰が抜けたように床に座り込んでしまう。
 ああ、パンツも半分下ろしたままだよ…。こっちは――まだ汚れてない、かな。
 来ヶ谷さん達に強要された女物の頼りない布。これ、脱いじゃった方がいいよね…。
 布に指を掛けた時、後ろでパサリと音がした。振り向くと、恭介が上着を脱いで傍の椅子に掛けてる所だった。
 ええと…何で上着を脱ぐ必要が?ってしかもネクタイを緩めて外してるんですけど。
 凄く、嫌な予感が…。
 這うようにしながらも、慌てて教室の隅に逃げようと試みる。
「どこ行くんだよ、理樹」
 目を細めて笑った恭介は、数歩で僕に追いついて――後ろから圧し掛かってきた。
「ほら捕まえた。――そんなやらしい恰好で逃げるなんて、悪い子だな、理樹は」
「や、あの、そのっ…」
「悪い子にはお仕置き、だよな?」
「いやいやいやっ!?」

 もの凄く楽しそうな恭介に、身体を組み敷かれながら――僕は海より深く反省した。
 やっぱり、来ヶ谷さん達に捕まっておくべきだった、と。


 
 
 
 
 

あとがき
 恭介に捕まるよりは、来ヶ谷さんの方がまだマシだったかもなっ。
 そんな訳で、あまのさんとのえちゃで発生した鬼畜恭介(笑)。あんまり鬼畜でもないけどな!あまのさんの絵から湧いて出たので、あまのさんに捧げまふ。変態同盟万歳!
 そして間違って理樹視点で書いてしまった…(∵)!この手の話は理樹視点の方がエロいんで思わず…。

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