”よし理樹!俺について来いっ”
差し出される手はいつも力強かった。
揺ぎ無く、自信に満ちて――恭介はずっと昔から、僕にとってヒーローだった。
まるで神様みたいに凄くて、この人と一緒にいられたら、何にも怖いものなんかない。
怯えていた僕の手を引いてくれた幼い日から、これから先も変わらず、恭介は僕の手を引いてくれてる。
その手を離さないで、いつまでも――。
恭介は、僕とずっと一緒にいてくれた。
僕なんかでいい?
まだまだ全然強くもなくて、弱いばっかりだけど。
でも一緒に生きていきたい。
恭介に、お帰りって、いつでも言うよ。
だから。
ずっと傍にいても、いいかな。――恭介。
*
掌に、シーツを握り締める。
乾いた唇を何度も舐めて湿らせて、けれど短く洩れる吐息にすぐ乾いていく。
「っ…は、っ…ぁ…」
真昼間の寝室に、ギシギシとスプリングの軋む音。
「んっ…あ、ぁっ…」
「理樹」
「あ、うっ…く、――ん…!」
ベットの上で四つん這いになって、後ろから身体を揺すられる。
引き抜かれて、突き入れられて、――耐えきれずに声が溢れ、口からもれ出ていく。
シーツを掴む指に、恭介の手がそっと重なる。まるで壊れ物を扱うような優しく慎重な所作だったのに、次の瞬間には手を握りこまれて、激しく腰を打ち付けられた。
「ひっ…あ、アァっ…ア!」
後ろからの突き上げに押し出されるように、先端から先走りが零れる。
狙ったように恭介の手が、僕の前に伸びてくる。
握られて上下に擦られて、恥も外聞のなく身悶えていた。
恭介の手が動くたびに、ぬちゅりとやらしい音がして、それにも羞恥を煽られる。
「ん、やっ…ぁ…」
「すっげぇ濡れてるな。――ほら、見てみろ」
「――っや、だっ…」
「こら…違うだろ、理樹。…イイ、だろ?」
小さく笑う声が後ろから耳元に落ちてきて、耳朶にキスをされた。
舌で舐められて、歯で噛まれる。その間も小刻みに中を抉られて、上がる熱に訳が分からなくなってくる。
腕から力が抜けて、沈みそうになった上体を、恭介の腕が支えて引き上げる。
「ひっ、く…ぁっ…!」
奥、にっ…!
上げそうになった悲鳴じみた嬌声を、口を押さえる事で、辛うじて飲み込んだ。
やめてと首を振る僕を、恭介が優しい声で宥める。
「大丈夫だ。――好きなだけ、声あげていいから」
我慢するな。
蕩けるような声でそう言って、突き上げてくる。抱き締められて、耳の後ろや首筋に何度も口付けが落ちてきた。
感じる所を深く浅く抉られる。口を押さえていたかったのに、ちゃんと腕で支えてろと言われて、またシーツの上に四つん這いにさせられる。
力の抜けそうな腕でどうにかその獣のような姿勢を維持したけれど、勿論口を塞ぐ事は出来なくなって。
「っあ、アァっ…は、――んっ」
自分のものとは思えないような高い嬌声。噛み締めても溢れる声は止めようもない。
まだお昼も前のこんな時間に、ベットの上で恭介に後ろから貫かれている。眩暈がするほどの快楽。
身体中が、恭介で一杯になる。
どう、しよう…こんな。
「ぁっ…あ、もっ…」
「理樹…」
荒い息が耳朶に掛かって、低く掠れた声が僕を呼ぶ。
いつもとは全然違う声。そのまま耳の中に舌が入り込んで来る。
身体中を這い回っていた手がまた前に触れてきて――擦りあげられる。
指先で鈴口を抉じ開けるようにぐるりと撫でられて、背筋が戦慄いた。
「っ…――い、ぁっ!」
「イきそうだろ?理樹」
「は、っ…く、んっ」
そ、んな、されたらっ…もうっ…!
「ん、んんっ…も、――っだ、め……!」
「ほら…イっていい」
「いっ…あ、ァアァっ――…!」
恭介の手に握られたまま、――熱を吐き出していた。ビクビクと全身が震えて、無意識に後ろを締め付けてしまう。
「――くっ…」
耳元で小さく呻くような声がして、ズルリと体内から楔が抜かれる。
次の瞬間、入り口付近から背中に掛けて、熱いものが肌の上に飛散るのを感じた。
力の入らない指でシーツを掻きながら、荒い息を落ち着かせ、時計へと目を向ける。
……もう、こんな時間だ。恭介、会社行く用意しないと…。
「凄い眺めだな…」
「ひ、ぁっ!?」
何の予備動作もなく、後ろから恭介の指が体内に捻じ込まれる。
さっきまでもっと質量のあるものを銜え込まされていたそこは、指を抵抗なく飲み込んだ。
「んっ…恭介っ…も、やめっ…」
「けど、お前の中メチャクチャ熱いぜ?」
「――はっ…だめ、って…!」
「こっちは気持ち良さそうだけどな」
「んんっ…ぁっ」
中を指で掻きまわされて、あっという間にまた熱が上がる。
背中や双丘の上を、まるで飛散ったものを塗り込めるみたいに、恭介の手がぬるりと滑っていく。
このままじゃ、またっ…!
力の入らない腕を無理矢理伸ばして、僕は枕元に置いてある目覚まし時計を掴んだ。
「恭介っ…」
「ん?」
「じかんっ…!」
「――ああ」
恭介が僕の手から時計を取って、時間を確かめる。
よかった、これで…。上がる息を懸命に抑えながら、声を出す。
「きょうすけ…ゆび、抜いてよっ…」
「――もう一回位出来るな」
「はっ…!?」
え、ちょっ…!?
「ち、違うだろ恭介っそうじゃなく、――っ…ん、ぁっ…!」
会社に行く時間が迫ってると教えたつもりだったのに、恭介の解釈は全くの逆だった。
焦る僕の背中に、余裕の笑顔で再び圧し掛かってくる。
そして、成す術もないまま、また僕は快楽に堕とされた――。
*
ホンット…信じられない。
時間がないって分かってるのにギリギリまで粘って、結局恭介はシャワーも浴びずに職場へ向かった。
僕はと言えば、フラフラしながらシャワーを浴びて、汚れたシーツを洗濯機に突っ込んで…それからちょっとだけ眠った。
ちょっとだけのつもりが、目を開ければもう夕方で、慌てて飛び起きたのがついさっきだ。
恭介が帰って来る前に、シーツを干して夕飯の支度はしたい。さっき台所を覗いてみたけど、買い置きの食料っていったらカップ麺位で、殆ど食材は無かったし。
調理器具は、使った様子のないまな板と包丁に、少しは使ってるらしいフライパンが一個だけ。
最低限、鍋とボールとザルは欲しいなぁ。まぁ、その辺りは後日恭介と相談するにしても、まず今日は食料の買い出しに行かなきゃ。
晩の献立を考えながら、洗い終わっていたシーツを抱えて、ちょっと部屋の中をウロウロする。
もう時間が時間だし、これからベランダとかに干すのは無理だ。ベットの置いてある部屋の窓際にポールが付いていたから、そこに掛ける事にする。
……ポール、高いんだけど…。
少しばかり悔しい思いをしながら、椅子を持ってきてシーツを干す。
さてと、じゃあ後は買い出しに行って――そう思った時、不意に携帯が鳴った。
誰だろ、恭介かな?
携帯を開く。相手は――。
「あれ…来ヶ谷さん…?」
何だろう。通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てる。
「はい、もしもし?」
『少年か。今どこに――ああ、恭介氏の所だったか?』
「あ、うん、そうだけど。でも今出掛ける所だよ」
『ほう。初日早々夕飯の買い出しか。フフ…甲斐甲斐しい若妻理樹君か……エロい…!』
「何でさっ」
相変わらず訳が分からない。
『そうなると、差し詰め夕食後のデザートには理樹君を頂く、といった所か』
「いやいやいやっ!」
いつものように、それは無いからと突っ込もうとして、――ベットと干したシーツが目に入った。
夕食前にもう頂かれました、なんて…。
思い出して一瞬で顔が赤くなるのが分かる。脳裏に蘇った情景を慌てて振り払って、話題を変える。
「そ、そんな事よりどうしたの?何か用事あったんじゃ…」
『いや、特に用事という訳ではないが――ふむ。つまりアレか。用事もないのに電話なんか掛けるな、と』
「ええっ!?言ってないよそんな事っ」
『恭介氏との愛の巣に邪魔が入るのは許せないから電話もするな遊びにも来るなとそういう事か少年実にいい度胸だ』
「いやいやいや全然言ってないからっ!っていうか寧ろ遊びに来てくれたら嬉しいし、恭介も喜ぶと思うよ」
『ほほう。そうかそうか。少年が是非にと言うものを、無碍に断る訳にもいかんな。よし、ではおねーさんが遊びに行ってやろう』
「うん。待ってるよ」
『はっはっは。何、そう待つ事もないぞ、少年』
「え?」
ピンポーン
「――えっ!?」
まさかっ…!
『遊びに来てやったぞ、少年』
電話をインターホン代わりに、突然の来訪者は実に楽しそうに笑ったのだった…。
あとがき
あうー思ったよりUP遅くなってしまいました…。
えー…まずは温く(笑)。まぁ、これからいつも一緒な訳ですし…ホントに理性持つのか恭介。
まぁ、恭介まだ二十歳前だしねーと言いつつも、恭介はあれだ、理樹には理性なくなるから、ほんとは別に歳とか関係ねぇっ…なんですけどね。
恭介はイドが相当強い人間のようなので、一端そーゆー関係になったらトコトン甘甘にのめりこむかと。