劇団リトルバスターズ!眠れる森の美女・1

 あの世界から全員が無事に生還し、いつもの騒がしくも楽しい日常が戻って数日後。
 突拍子もない事を言いだしたのは、やっぱり恭介だった。
「劇をやろう。劇団名は――リトルバスターズだ!」
「ええー!?」
 恭介の一言で、またもや僕達の新しいミッションが始まった――。
 
          *
 
 全員が食堂に集められる。よく考えてたら結構な人数だよね。
 輪の中心に立って、恭介が説明を始めた。
「まずは今回の趣旨からな。こいつは幼稚園の演し物だ。なので、分かり易く童話を選ぼうと思う。眠れる森の美女なんかどうだ?」
「いいんじゃない?」
 周りからの異論もないようだし、恭介にしてはマトモというか、無難な選択だと思う。
 僕が賛成すると、恭介は満足そうに頷いた。
「よし。じゃぁ演目はこいつで決まりな。あとはキャストだが」
 周りをぐるっと見回して、恭介は言った。
「ま、順当なトコで、鈴が王子、理樹が眠り姫な」
「いやいやいやっ!?」
「何だ、どうかしたのか?理樹」
「どうもこうもっ。まるっきり順当じゃないからさ!何でそんな配役なの?」
「そりゃ、この方が萌え――燃えるからに決まってるだろ」
 今一瞬不穏な漢字が混じった気がするけど…気のせいだとしておこう。
「恭介、ここはやっぱり公平にクジで決めようよ。ね?」
「そうかぁ?」
 幾分不満そうだったけど、恭介は思ったよりすんなり妥協してくれる。
「じゃ、僕がクジを作るから…」
「その必要は無いぞ。こんな事もあろうかと思って、私が作っておいた」
 そう言って箱を取り出したのは来ヶ谷さん。相変わらず、どんだけ先読みをしてるんだろう、この人は。
「さ、皆ありがたくクジを引け。…ふふ」
 …なんか仕込んでありそうで怖いなぁ…。
 取り敢えず皆でクジを引く。
「やはぁ〜。はるちん裏方かぁ〜」
 残念そうに言うのは葉留佳さんだ。その隣に小毬さんと西園さんが現れる。
「だいじょーぶ!私たちも大道具だよぉ」
「裏方も大切な役回りです」
「こまりちゃん!あたしもだっ」
 鈴がちょっと嬉しそうに小毬さんの傍へ駆け寄っていく。
 そっか、眠れるの森の美女って、案外役少ないんだっけ。姫と王子と魔女と、糸紡ぎのおばあさんに、王様位だよね。
 ふと恭介の方を見ると、何やら難しい顔でクジを凝視していた。
「何だったの?」
 その手元を覗き込むと――。
「うわぁ…恭介、はまり役だね」
 そこには『王子』と書かれていた。
「まぁな。お前の予想通り、俺は完璧な王子役をこなすだろう。けどな――」
「それじゃ燃えないとか?」
「いや、それ以前の問題だ。…残ってるメンバーと配役を考えてみろ」
「――あ」
 そうか。真人、健吾、来ヶ谷さん、クドに僕。眠り姫はこの五人の中の誰かになる訳で。
「…五分の三の確率で、姫は男になるね…」
「俺にとっての最悪な五分の三は、男二人に女一人だけどな」
「来ヶ谷さん?」
「ああ。ま、お前が相手なら問題ないが…あいつらだけは勘弁してほしいぜ」
 そっか――僕はいいんだ…。っていうか僕って、恭介の中でどう位置付けされてるんだろう。
 男だと認識されてるんだろうか…?
「残念ながら私は糸紡ぎのおばあさん役だったよ、恭介氏」
 不意に背後から来ヶ谷さんが現れた!
「驚かすなよ、来ヶ谷」
「全く驚いていないようだが」
「理樹を、だ。しかしお前ならてっきり魔女かと思ったが」
「――ふふふ」
 いや何ていうか凄い満足げに嬉しそうなのは何でかな??
「わふー!私は魔女役ですー!」
 え、クドが魔女??う、ううーん…想像できない…。
「魔女っ子クド君…ああ、エロ萌える」
 来ヶ谷さんは想像しまくっていた!――あれ?じゃぁ眠り姫って…。
「俺は王様、か。ま、妥当な所だな」
 謙吾のセリフに、僕と真人は顔を見合わせる。
 どっちかが――眠り姫っ!?
「ま、マジかっ!」
 真人が慌ててクジを開く!そして――。
「ぬぉぉぉぉ――!」
 真っ白に燃え尽きた!
「まさかお前かよっ」
 恭介が声をあげ。
「正直、引くな」
 鈴がドン引きし。
「ファイトーなのですっ井ノ原さん!」
「だ、だいじょーぶ!ドレスはちゃんと測って作るからっ」
 励ますクドと、間違った方向に慰める小毬さん。
「美しくないです…」
「ふむ…おかしいな、そんなはずは――」
 不機嫌な西園さんと、怪訝そうな来ヶ谷さん。やっぱり何か仕込んでたんだ。
 謙吾は、眉を潜めつつも僕を振り返る。
「あいつが姫とは世も末だな…。では理樹は裏方か」
「だね」
 真人と恭介には悪いけど、良かった…。ほっとしながら一応クジを開く。内容を確認して…。
「あれ…?」
 一度クジをたたんで、もう一度開いてみる。
「あ、あれっ…?」
「ん?どうした少年」
「え、いや、あのっ」
 思わずクジを隠そうとしたけど遅かった。中身を見た来ヶ谷さんがニヤリと笑う。
「ふ…やはりな。眠り姫は君だ、理樹君」
「え、あの、だって…あれ??」
 確かに紙には『眠り姫』と書かれてるけどっ。でも真人は!?
「何だ、姫は理樹か。ったく驚かせやがって…」
 僕のクジを覗き込んだ恭介があからさまに胸をなでおろす。やっぱり僕ならいいんだ…。
「うん、まぁ理樹ならいいな」
「わふーっリキがお姫様ですか!それはべりーびゅーてぃふぉーなのですっ」
「理樹君なら、ふりふりのドレスとか似合いそうだよねぇ」
 鈴とクドと小毬さんは、なんか盛り上がり始めた。
「眠り姫の理樹君か…エロいな…」
 いや、なんでさ来ヶ谷さん。
「棗×直枝…王道です…!」
「お化粧ならはるちんにお任せ〜!」
 西園さんも葉留佳さんも何でか楽しそうだし!
 さらに、謙吾がじっと僕を見つめてくる。
「まぁ、その…お前なら似合うと思うぞ」
 ってそれ慰めになってないからね!?
「いやいやいや!だって真人は!?」
 未だ真っ白に燃え尽きている真人の手からクジをひったくる。そこには――。
「――『木』」
「ぬぉぉぉぉっ『木』って言うなぁぁぁっっ!!」
 何かトラウマらしかった…。

 
 
 
 
 

あとがき
 きっと誰もが一度は考えているであろうネタ(笑)。
 やってみたかっただけです!続きます!

next>> ○小説メニューへ戻る○ △topページに戻る。△