劇団リトルバスターズ!眠れる森の美女・2

「…どうせ俺なんて木さ…木になるぐらいしか筋肉さんの出番はないって事だろ…」
「真人、そんな事ないって」
「慰めはよしてくれっ」
 あああ、すっかりいじけちゃったよ。
 真人に『木』を割り振った来ヶ谷さんを振り返る。
「ねぇ、なんか他に役ってない?」
「うむ、あるぞ」
 存外あっさり来ヶ谷さんは頷く。
「真人少年、実際問題『木』というのは冗談だ」
「へ?」
「君には魔女をやってもらわねばならん」
 え?
「マジかよ!それって凄い重要な役じゃね?」
「そうだ。任せたぞ」
「おっしゃー!任せろっやってやるぜ!」
 盛り上がる真人。
 僕は慌てて来ヶ谷さんに小声で聞く。
「魔女はクドなんじゃ…?」
「いや、能美女史にやってもらうのは、黒の魔女だ」
「じゃあ真人にやってもらうのは?」
「うむ、白の魔女だな」
「眠れる森の美女って、そんなに魔女いたっけ?」
「はっはっは。正確には全部で13人もいるぞ。が、そんなにいると衣装やら台詞やら、色々大変だからな。恭介氏が、白と黒の魔女二人に脚本を書き換えたんだ」
 そうだったんだ。……ん?今、恭介がって言った?
「来ヶ谷さん。もしかして、恭介と打ち合わせしてたの?」
「いや、単に事前に話を盗聴していただけだが」
 うーん…来ヶ谷さんならやりかねないだけに、本当か嘘か分からない…。恭介に負けじ劣らずのポーカーフェイスだからなぁ。
 まぁ、恭介が「王子」役をやりたがるとも思えないから、恭介と組んでた訳じゃないのかもしれない。
 どっちにしろ、来ヶ谷さんが配役を操作したことに変わりはないんだけど。
 うう、眠り姫か。なんていうか…ある意味自分でも否定できないくらい合ってるような気がするのが嫌だ…。
 
 
「じゃ、とりあえず台本の読み合わせでも始めるか!」
 恭介の提案で、まずは皆、台本と椅子を持って一箇所に集まる。台詞を言う人は、立って中央に出る事になった。
 出だしは、多少脚色されているものの、いい感じで物語が進む。
 姫の誕生日に、王様は白の魔女を招待する。だけど黒の魔女は招待しなかった。怒った黒の魔女が呪いをかけにやってくる。
「俺の台詞か。『しかし、黒の魔女を招待しなくて、本当に大丈夫だったのだろうか』」
 そう謙吾が言ったところで、恭介がクドに顔を向ける。
「よし、ここで黒の魔女、能美が登場だ。招待されなくて怒ってるからな、怒りを込めた感じで頼む」
「はいなのですー!『ごーやーちゃんぷるーなーぱー…』」
 え、ええと?
 延々と続く意味不明のクドの台詞。
「きょ、恭介、これは…?」
「ん?ああ、魔女の呪文だからな、普通の人にわかる台詞じゃおかしいだろ」
 や、いきなり登場してこの台詞の方がおかしいし。
 やがて意味不明の呪文が終わると、クドは満足そうに息を吐く。
「しゅーりょーです!」
 え、呪文だけで終わり!?
「よし、ここでいよいよ、白の魔女真人の登場だ」
「おっしゃー!」
「さっき、紡ぎ車の錘にさされて死ぬという呪いを受けた姫に、白の魔女が魔法を掛け直す。死なないが、100年眠りにつく、という魔法だ」
 そういう話なんだ。っていうか、さっきのそういう呪いだったんだ!
「じゃぁ、白の魔女らしく善人な感じで呪文を頼む。渋めにな」
「任せとけっ!『ザワザワザワ』――…ってこれ木と同じじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
 (ぶちぶちぶちっ)
 うわっ真人が髪の毛を毟り始めた!
「真人っ禿げちゃうよ!恭介、セリフ変えてあげてよっ」
「ん?そうか?じゃ、カラカラカラ、で頼む。渋めにな」
「おっしゃー!じゃぁいくぜっ!『カラカラカラ』――…ってそれ空き缶だろぉぉぉぉ!?」
「五月蝿い奴だな。じゃあザラザラザラならいいだろ。渋めにな」
「よしきたっ!『ザラザラザラ』――ってそれ木と空き缶混ぜただけじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
 (ぶちぶちぶちっ)
 ああ、真人が禿げる日は近いかもしれない…。
 そんなこんなで話は順調に(?)進んでいった。
 姫はある日、残されていた紡ぎ車を見つけてしまう。
 そこで来ヶ谷さんが立ち上がる。
「そろそろ私の出番かな?恭介氏」
「そうだな、じゃぁ、糸紡ぎのおばあさんの所に、姫がやってくる。理樹、台詞だ」
「え、えーと…『おばあさん、それは何?』」
「ふふ、これは紡ぎ車だよ、可愛い姫君」
 おばあさんの台詞が、来ヶ谷さん仕様にデフォルメされてる…。
「つ、『紡ぎ車?見た事がないわ。触ってもいい?』」
「触りたいのか。大胆な子は大好きだよ。さぁ、おいで…」
 いやっ何か無駄にエロオーラがっ!これ幼稚園児に見せていいの!?
「どうした姫君。――触りたいんだろう?君の欲しいものはこっちだ。大きくて立派だろう」
「ええと…あ、『ありがとう。おばあさん』」
「さぁ、捕まえた」
「え?」
 僕はなぜか、来ヶ谷さんに腕を掴まれていた。いや、読み合わせだから、そんな演技まで必要ないんじゃ…。
「こんな所に一人でやってくるなんていけない姫だ。お仕置きに…私が食べてしまおう」
「うわっちょ、待っ…!?」
「そこまで!」
 来ヶ谷さんの暴挙を制したのは、恭介の低い声だった。来ヶ谷さんに抱き込まれそうだった僕の身体を、恭介は自分の方に引き寄せる。
 後ろから恭介に抱き締めて貰って、思わずほっと息を吐く。何か…色々危なかった…。
 来ヶ谷さんはチッと舌打ちする。
「邪魔をするな恭介氏。これからイイ所だぞ。一番の盛り上がる濡れ場だ」
「そんな場はいらん。というか全くの脚本無視だろ」
「しかし、原作では錘というのは男根の象徴だ。錘に刺されて、という事はつまり、姫は無理やり糸紡ぎのおじいさんにヤられちゃうというエロスが――」
「こらこら」
 ええぇっ眠れる森の美女って、そんな話だったの!?
「ん?どうした理樹、顔が赤いぞ」
「だ、だって…」
「少年には刺激の強すぎる話だったか?フフ…ああ、可愛い…」
 来ヶ谷さんが何か萌えていた。そしてその隣で、
「恭介さんに後ろから抱き締められて、頬を染める直枝さん…すすす素晴らしいですっ…!」
 西園さんが悶えていた!

 
 
 
 
 

あとがき
 ぶっちゃけ、魔女13人とか超省略(笑)無理だっ
 でもって皆を喋らせるのも無理だっ
 しかもまだ続くっ

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