その日の夕方。
リトバスメンバーは、全員僕と真人の部屋にギュウギュウ詰めに集まっていた。
まぁ、食堂で出来る話じゃないしね。
因みに、表のドアにはでかでかと、”直枝理樹○○化事件緊急本部”と書かれた垂れ幕が下がっている…。
○の部分は、恭介曰く、男子寮で”女”がバレるとまずい、との事だった。ていうか、だったらこんな怪しげな本部設置しないでほしいんですけどっ!
「まず――事態を整理しようか」
どうやら本部長は恭介らしい。どこからか持ち出してきたホワイトボードに、僕の写真をマグネットで張り付ける。
名前、年齢を書いて、性別は――はてなマーク。
いやいやいやっそこは男って書いておいてよっ!?
「さて、皆も知っての通り、今日理樹の身体が女になった訳だが」
うわぁぁぁ…。何か改めて言われるとショックだ…。
「理樹は、今朝手紙をもらい、家庭科室に呼び出された。そこで、バイオ田中のものらしいクッキーを発見。食べてしばらく後に、倒れて異変が起こった。
以上の状況から、明らかに原因はバイオ田中のバイオクッキーと考えられる」
「あたしも食べたぞ?」
「そこがポイントだな。鈴が食べて何でもないという事は、今回のバイオクッキーは、女体化させるもの、と推測できる」
なるほど。元々女なら問題ないって事か。
「で、だ。バイオ田中がなぜこんな事をしでかしたのか、という点については現在調査中だ。というか、ぶっちゃけ奴が見つからん」
「ええぇぇっ!?」
見つからないって…何で!?
思わず声を上げると、謙吾と真人が無念そうに肩を落とす。
「すまんな、理樹。探せる所は全て探したんだが…」
「マジで見つからねんだよあいつっ…チクショー!」
え、ええと…つまり――田中さんが見つかるまで、僕ずっとこのまま!?
そんな…!
愕然となる僕に、来ヶ谷さんがトドメのように呟く。
「しかし…その田中とやらが見つかったからと言って、元に戻れるのか?」
――ま、まさか……一生このままって事も!?うわーそんなの嫌だよっ!
縋るように恭介を見つめる。恭介はいつもの頼れる笑みを見せた。
「大丈夫だ、理樹」
「恭介…!」
「いざとなったら俺が嫁に貰ってやるから」
「うん…っていやいやいやっそれ大丈夫じゃないしね!?」
何言ってるのかなこの人っ。
ああぁぁ…ホントに大丈夫なのかな。凄い心配になってきた…。
ふと横から視線を感じてそちらを向くと、小毬さんとクドが食い入るように僕を見ている。
「どうしたの?二人とも」
「リキ…女の子でも、全然違和感ないのですっ…!」
「うんっ。なんか別に、特に不思議な感じもしないよねぇ〜」
「いや違和感感じてよ、お願いだから」
流石に男として色々傷つくよ?
が、皆はそんな僕の心境にはお構い無しだ。
「まぁアレですヨ。理樹くんは女子寮にも受け入れられてますからネー。寧ろ男の子だっていう方がバリバリ違和感デスヨ!」
さりげなく酷いよ、葉留佳さん…!
その後ろで、腕組みをした鈴が僕を見つめ、やがて、うん、と大きく頷いた。
「大丈夫だ。理樹。お前、女子の制服の方が似合いそうだ」
それ慰めてないよね?トドメ刺してるだけだよね!?
「フフフ…良いではないか、少年。お姉さんは可愛いものは大好きだよ…」
「っ!?」
何か今身の危険を感じたっ!?
うわぁぁぁ早く元に戻りたいよー!
「はーいはいっ!こっち注目!話を元に戻すぞ」
恭介が手を打って、再び皆の目を集めると、ホワイトボードに問題点を書き始めた。
@理樹の身体が女体化。
A原因はバイオクッキー
B犯人と思われるバイオ田中は現在失踪中
C治療法は一切不明。田中の発見待ち。
D現状での理樹の状況。
……こう箇条書きにされると、改めて落ち込みたい…。
何でこんな事に…!
恭介は相変わらず冷静に話を進めていく。
「さて、当面の問題はこの5番だ」
ホワイトボードを拳の関節でコンっと叩く恭介。
「いま現在、理樹は男子寮で真人と同室な訳だが―――真人」
「何だよ」
「お前、理樹と同室で大丈夫か?」
「はぁ?大丈夫って…何がだ?」
きょとんと不思議そうな真人に、謙吾が片目を上げる。
「ふむ。…男子高校生が、女子生徒と一つの部屋で寝泊まりか…。問題ない、とは言えないな」
「でも理樹だろ?」
僕を指さす真人に邪気はない。
…大好きだよ真人っ!っていうか、寧ろ後ろで手ぐすね引いてる来ヶ谷さんの方が遥かに怖いし問題だよねっ!?
「や、別に問題な…」
僕が真人に賛同しかけた瞬間、すっと音もなく僕の横に移動してくる来ヶ谷さん…!
「問題だな。間違って真人少年の理性が切れたら、理樹君ではどうしようもない。やはりここは女子寮に来るべきじゃないか?」
「いやいやっ僕が女子寮に行く方が問題だからっ」
「大丈夫だ。全く以て外見に問題はない。心が男だというなら一人部屋になればいい。因みに今、私の斜め向かいの部屋が空いているぞ」
な、何でそんなに大プッシュさっ!しかも目が怖いよ目がっ!
これはマズイっ。間違って女子寮で一人部屋になんかなったら…うわぁぁ想像するだに恐ろしいぃぃっ!?
「え、遠慮します…」
「遠慮する事などないぞ。女子寮での楽しい過ごし方をお姉さんが手取り足取りじっくりしっぽり教えてやろう」
舌舐めずりしそうな勢いの来ヶ谷さん。
いーーやーーっ!!
「ぼ、僕真人と一緒の部屋がいいなっ!」
保身の為思わず口走ったその言葉に、目の前で真人がいたく感動する。
「理樹っ…俺も理樹と一緒の部屋がいいぜっ!」
「うわっ!」
喜びのあまりか、がばりと抱きつかれる。
「理樹っ大好きだっ!」
「はいはい…僕も大好きだよ」
ぽんぽん、と背中を叩いてやっていると、なぜか皆の視線が突き刺さってくる。
そして謙吾と来ヶ谷さんが恭介の方を向いた。
「やはり危険だな。理樹は俺が預かろう、それでいいな?恭介」
「恭介氏、どうやら男子寮は危険なようだ。少年の面倒は、女子寮で私が見よう」
「いやいやいやっ」
僕の安全を口にする二人の方が何だか危険な気がするしっ!
怯える僕を庇うように、真人がずいっと前へ出ていく。
「何だよお前らっ!理樹は俺がいいって言ってんだろっ!?」
「しかし、仮にも理樹は女性だぞ。見てみろ、小さな肩、華奢な手首…。にも拘わらずそんな不用意に抱きつくようではな」
「今の理樹君では、真人少年相手に蚊程の抵抗も出来まい」
「だって理樹だぜ?抱きついちゃ駄目なのかよっ」
「「駄目だな」」
声をはもらせる謙吾と来ヶ谷さん。
…いや、この二人に比べれば、男とか女とか何も感じずに抱きついてくれる真人の方が遥かに安全だよね…。
「ちくしょー何だよっ!理樹っ俺がいいんだよな!?」
「か弱い理樹をお前に任せられるか。さ、理樹。俺の手を取れ」
「大丈夫だ理樹君。お姉さんは優しいぞ」
迫って来る三人。
うわぁぁぁっ!?
「こらこら、お前らそこまでだ」
三人を掻き分け、僕を助けたのは恭介だった。
よ、良かった…。
「言っとくが、さっきの”同室で大丈夫か”ってのは、男だ女だって意味じゃないぜ?」
呆れたように恭介。
「真人。お前、もしまた理樹に何か異変があったらどうする?」
「そりゃ…恭介を呼びにいくぜ」
うん。まぁそれが正しい判断だと思う。真人の返答に恭介が頷く。
「だろ?だったら俺と理樹が同室になった方が話が早い。まぁ、何が出来るって訳でもないだろうが、理樹もその方が安心だろ?」
「そう、だね…」
それは確かに…。何かあった時、恭介が傍にいてくれれば心強い。
即座に頷くと同時に、来ヶ谷さんが「チっ…!」と鬼怖い舌打ち。
良かった…女子寮に行く羽目にならなくて、本当によかった…!
「じゃ、ルームメイトに話は通しておくから。理樹、お前今日から俺の部屋な」
「うんっ」
こうして――。
バイオ田中さんが見つかるまでの間、僕は恭介の部屋で過ごす事になったのだった。
あとがき
いやー…三話で終わる予定だったんですが…終わらない事に気がついたので、1,2、表記に変えましたー。
せっかくなので、こう…お約束をね(笑)書きたいかなと。うーん…ギャグ要素が足りないですね…不満だ…!そして途中まで微妙に真人理樹だったっ。