晴れ時々女体化注意報・3

「じゃ、ルームメイトに話は通しておくから。理樹、お前今日から俺の部屋な」
「うんっ」
「よーし。それじゃ、取り敢えずは解散だ」
 バイオ田中さんが見つかるまで、僕は恭介の部屋に泊まる――そう決定して、会議は終了した。
 解散決定直後に、ふと違和感に気付く。
 そう言えば――西園さんって、どうしたんだろう?
 集まった時はいたはずだけど、声を一度も聞いていないような。
 こう言っちゃ何だけど、絶対食いついて来そうなのに。
「ねぇ、恭介」
「ん?」
「西園さんって、どうしたんだろ?」
「あいつか?――そういや、さっきから見ないな…」
 恭介も辺りを見回した時、不意にドアが開いた。
 そこには件の西園さん。しかも相当急いで来たのか、珍しく息を切らせている。
「直枝さん…記念写真、よろしいですか?」
 ちゃきっと上げたその手にはデジカメ。何だ、それ取りに行ってただけか。
 ――って、記念写真っ!?
「ど、どんな…?」
「……(ぽ)」
「いやいやいやっそこで頬とか染められてもっ」
 絶対何かヤバい格好とかさせる気だっ。思わず後ずさる僕に、西園さんがにじり寄る。
「直枝さん…恥ずかしい事などありません。女同士です」
「いや僕女じゃないしっ」
 大体恥ずかしい事はないって…何をさせる気さっ。
 そして、迫る西園さんから僕を助けたのは、やっぱり恭介だった。
「こらこら、西園。その辺にしてやれ」
「…直枝さんの女体化写真を撮るだけですが…」
「理樹だってまだ、ちゃんと受けいれられてないんだ。もうちょっとそっとしといてやってくれ」
「――。分かりました。…すみません、直枝さん」
 西園さんはあっさり引いて、ぺこりと頭を下げる。因みにその背後には、いつの間にか女子の制服を用意している来ヶ谷さんと、携帯のカメラを構えた謙吾の姿があったりする。
 うわぁ…何、その便乗っぷり…。
 恭介が苦笑して僕を見る。
「…大変だな、理樹」
「ん…でも、恭介がいてくれてよかったよ…」
 はっきり言って、恭介がいなかったら僕は今頃――来ヶ谷さん辺りに、裸に剥かれてたんじゃないかと思う…。
 この先…本当に大丈夫なのかな…。
 不安も問題も山積みだったけれど――結局大した緊張感もなく、僕らは解散したのだった。。


          *


「恭介、いる?」
「お、早速来たか」
 緊急会議のあと、僕は着替えやら何やらお泊まり道具一式の入ったバックを手に、恭介の部屋を訪ねた。
 恭介のルームメイトは既にいないようだ。
「お邪魔します…ってうわ、散らかってるね…」
「あーすまん。遂な…」
 机の上や床、ついでにベットの上にもマンガが散乱している。
「恭介。読んだら元の所に戻す…基本だよ?」
「悪ぃ」
 頭を掻く恭介に苦笑しながら、僕は早速部屋を片付ける。
 ええと――これは恭介の好きなシリーズだから、前の方に並べておこう。こっちは…奥でもいいか。
 本を拾って選別していく僕に、恭介が声を掛けてきた。
「なぁ理樹」
「なに?」
「お前、どこまで女になったんだ?」
「ぶっ」
 どさどさどさーっ!と手にしていた本を床に落としてしまう。
 いやいやっ、急に何て事言うんだよっ!?
「ど、どこまでって…!?」
「胸が付いてるだけとか、…下まで、とか色々あるだろ。さっきは全員動揺してたからな、そこまで頭が回らなかったが。
実際どの程度のものか、確認したのか?」
「――い、一応上だけ…」
 緊急会議前に、胸がある事は確認した。それだって”何かある”程度でちゃんとなんて見てない。当然下なんて――。
「ちゃんと確認した方がいいんじゃないか?」
「うっ…」
 それは出来ればしたくないような…。
 余程嫌そうな顔をしてしまったらしく、恭介が小さく肩を竦める。
「…仕方ないな。ほら、こっち来い」
「?」
 手招きされて、恭介の前に行く。ぽふぽふと軽く頭を叩かれる。
「何?」
「まぁ、背は変わってないな」
 そのまま手が肩へ。
「…ちょっと細くなったか」
「え?そう?」
 自分では全然分からなかったけど、…凄いなぁ。さすが恭介。
「顔と声はほぼ同じ――後は、中身だな」
 え?と思う間もなく、恭介の手がひょいと僕の上着の前を開く。
 そのままシュルリとネクタイを解かれ――。
「流石にワイシャツになると分かっちまうか」
「って何やってんですかっアンタっ!?」
「ん?そりゃ、次に何が起こるか分からないからな。現状は常に把握しておく――常識だろ」
「いやいやいやっだからって…!」
 思わず前を押さえて逃げ――る前に、ガシリと肩を掴まれる。
「――理樹。何も変な事しようってわけじゃないんだ。安心しろって」
「ま、待ってよっ!じじ自分で確かめるからっ」
「あのなぁ。俺だって把握しとかないと、何かあっても対処のしようがないだろ?ほら、大人しくしてろ」
 あーっあーっあーっっっ!?
 恭介は片手で器用にワイシャツのボタンを外していく。
 最初に少し確認しただけで、僕だってロクに見ていなかった胸のふくらみが、開いた襟からちらりと覗く。
 うわ…やっぱりホントにある…。なんていうかこう…白くて柔らかそうな……。
 そんな事を考えていたら、プチプチと淀みなくボタンを外していた恭介の手が、不意に止まった。
 ど、どうしたんだろう?もしかして…僕の身体、女体化の他におかしな所でも……!?
 恭介の顔を伺うと、そこには眉間に皺の刻まれた深刻な顔。
 まさかホントに女体化以上の異常が…!
「――ぐはっ」
 違ったっ!?
 呻き声を上げて、恭介はそのままクルリと僕に背を向ける。
「きょ、恭介…!?」
「いや、違うぞ?」
 何がっ!
「まぁ何だ。アレだ。――やっぱりこういう事はまず自分で確かめるべきだな」
 いやあのさっきと言う事が大分違うよね?
「という訳だ、理樹。やっぱ自分で確かめて来い」
 言って洗面所を指さす恭介。
 俺だって把握しとかなきゃ云々とかいう話はどうなったのさっ。  ……何か、恭介まで信用できなくなってきたんですけどっ!?
 こっちを見ない恭介にもの凄く不信感を抱きながらも、取り敢えず洗面所に向かう。
 トイレと洗面所の一緒になった個室に入って、――鍵を掛けてみたりする。いや、信用してるよ勿論。してるけどさ…!
「はぁぁ…」
 思わずひとりでに大きな溜息が出た。
 目の前には鏡。それを覗き込んで、開きかけているワイシャツにそっと指を掛ける。
 こ、これはっ…!そんなに大きくはないけど…やっぱりちゃんとしかも何だか形のいい胸が…!
 恐る恐る指で突っついてみた途端、ふにゃりと柔らかい感触。
 うわ…こ、こんな風なんだ…。
 自分の身体に付いているものながら、何と言うか…ううっ。み、見なかった事にしよう―――って訳にもいかないし。
 治るまでは、この状態なんだ…慣れなきゃ。
 ええと…あとは、下、だよね。
 これは凄く嫌だったけど、いずれは見なきゃ駄目になる事だ。意を決してズボンのベルトを緩め、それから…覗き込む。
「………」
 ない。
 うん――ないや…。
 そっかぁ…僕ホントに女の子になっちゃったのか…。
 ………。
 ……。
 …。
 うああああーーっっ!
 そりゃ確かに女顔だと言われたり、女みたいだって言われたり、女子の制服着せられたり色々あったけどっ!
 でもホントに女になるなんてっ!
 ああ何かもう…色んな事がどうでもいいや…あはは…。
 項垂れながらも服を整えて、恭介の待っている部屋に戻る。
 洗面所を出ると、恭介はさっきの動揺なんて欠片もなく、いつも通りベットの上でマンガを読んでいた。
「お、どうだった?」
 まるで天気の話でもするみたいに涼しい顔で僕を迎える。僕はストンと恭介の隣に腰かけた。
「理樹?」
「恭介…何て言うか、ちゃんと女だったよ…」
「――下もか」
 うっ…!
 そのまま僕がガックリ肩を落とすと、慰めるように恭介が頭を撫でてくれた。
「…よしよし。大丈夫だ。俺が何とかしてやるからな」
「う、うんっ…」
 やっぱり恭介がいてくれて良かったっ…!
「さてと…だったらそれはそれで、これからどうするか対策立てないとな」
「対策?」
「ま、男として生活するのに、その身体で支障がないかどうかの検討だな」
 成る程…それは確かに必要だ。
 二人で対策を練った結果――。
 意外にも、日常生活については、然程問題なさそうだった。――僕の、男としての精神的ショックを除けば、だけどね。
 トイレはまぁ、個室に入ってしまえばいいし。
 元々制服が大きかった事もあって、上着を着てしまえば体形なんかよく分からない。
 声や顔が変わった訳じゃないから、男子の制服を着てしまえばいつもの僕と同じだった。
 試しに夕食で、リトルバスターズメンバー以外のクラスメイトに話しかけたりしてみたけど、至って反応は普通。
 要するに、全くバレなかったのだ。まぁ…そんなもんだよね。
 そして問題が起こったのは――その日の夜だった。


 夕食も終わって、恭介と部屋で話していた、その途中。
「おっと、もうこんな時間か」
「あ、そろそろお風呂閉まっちゃうね」
「そうだな。じゃあ、風呂に行くか」
「うん。急がないと…」
「ってちょっと待った!」
 洗面用具を持った僕を、恭介が押し留める。
「お前…風呂どうする」
「あ…」
 二人で顔を見合せて、硬直。
 そうだよ…お風呂、どうしようっ!?
 恭介が顎に手を当てて考えこむ。
「そうだな…。まぁ最後の方が空いてるだろ。誰もいなくなったら、俺が戸口で見張ってるからその間に…」
「あ、でも…」
「どうした」
「誰か一緒に入る人が必要、なんだけど…」
 そうなんだ。僕が普段から一人でお風呂に行かないのには理由がある。
 湯船の中でナルコレプシーで倒れたりなんかしたら、そのまま溺れて――なんてことにも成りかねない。
 だから今までは、真人と一緒に行ってたんだけど…。
 恭介は一つ頷いて、
「そうか…じゃあ、俺の他にまだ人員が必要だな。真人と謙吾にも声掛けるか。一応見張りももう一人いた方がいいしな」
 携帯を取り出し、真人と謙吾にメールを打つ。
 その姿を見ながら、ふと思った。
 それで僕って……一体誰と一緒にお風呂に入るんですか!?

 
 
 
 
 

あとがき
 オチへの伏線ちまちま(笑)。それはさておき、恭介には忍耐の日々になりそう。
 前提がループ世界なので、当然理樹と恭介は恋人でも何でもないわけですが…。ふっ…なーにが完璧超人だっという位動揺させてみたいですねー(笑)。
 でも、お風呂を誰と一緒に入れるかはまだ考えてないですけどね!(お前っ)

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