君と僕の軌跡・1

 これは俺の使命だ。
 
     これは僕達の運命だ。
 
 俺はお前らを助ける。
 
     僕達はあの人を助ける。
 
 お前らは、俺の命よりずっとずっと大切なんだ。
 
     僕達は、あの人にずっとずっと大切にされてきたんだ。
 
 お前らとずっとずっと一緒にいたかった。
 
     あの人とずっとずっと一緒にいたいんだ。
 
 だけど、俺はもう、お前らと一緒にいられない。
 
     だって、僕達はもう、あの人なしじゃいられない。
 
 
       ――――だから、絶対絶対、助けるんだ…!
 
 
           *
 
 
”僕は恭介の事が好きなんだ!”
 いつかの世界で聞いた、絶叫。それが、今も耳について離れない。
 俺にとって、何より優しく、何より愛しく、何より残酷に響いた言葉だった。
 今言うのか、今この時に。
 その手を、掴んでしまいたかった。身体ごと抱き締めて、掻っ攫ってしまいたい。
 膨れ上がった衝動を、けれど俺の理性はギリギリで押し留めてくれた。
 早く行け…早く行ってくれ!
 でないと、一緒に連れて行ってしまいそうだ。
 鈴にはお前が必要なんだ。だから――。
”もう迷うな!とっとと行けぇぇぇー!”
 未練を断ち切るように叫んだ。多分、鈴がいなければ……俺は、理樹の手を引いていたかもしれない。
 不思議だった。鈴には、連れて行こうだなんて、そんな事は一度も思わなかったのに。
 鈴には生きて欲しい、絶対に。理樹にだってそれは同じはずだ。二人は、俺にとって同じくらい大切で。
 なのにどうして「鈴に必要だから」だなんて理由をつけなければ、駄目だったんだろうか。
 理樹だけは、連れて行きたい――だなんて。
 その意味に……本当は、少しだけ気付きかけていた。だが、もう俺には関係の無いことだ。
 分かった所で、気付いた所で、もう意味はない。
 あの世界で、俺は――たった一つの信念だけを残して、あらゆる事を諦めた。
 けれど。
 俺が、多分生まれて初めて本当の意味で諦めた事を、理樹は、諦めなかった。
 俺の諦めた全てを、あいつは諦めなかったんだ。
 だから、俺は――俺達は、今こうして生きていて。
 
 
 ――隣には、理樹がいるんだ……。
 
 
           *
 
 
 車が砂利道を走る。
 助手席の理樹は、まるで難解な古文書でも読み解くように、難しい顔で地図と睨めっこしている。
 現在、リトルバスターズ修学旅行中だ。行き先はダーツを投げて、一番行けそうな所というルールになっている。
 今は……まぁ、どっかの山奥だ。
 俺と理樹以外のメンバーは既に宿にいる。俺達は買出し組って訳だ。麓まで出かけて、その帰り道なのだが。
「ねぇ、恭介。この道…やっぱり地図にないよ」
「ん?そうか」
「元の道に戻ろうよ」
「大丈夫だって。さっき地元の車が入っていったし、多分宿への近道だ」
「でもその車、いつの間にかいないしさ……。やっぱり戻ろう?」
 理樹は幾分心配そうな顔をする。
「心配性だなぁ、理樹は。見知らぬ土地ってのは、こういう迷子になりそうなスリルを楽しむのが醍醐味だぜ?」
「それ、恭介だけだから…」
「そうか?ま、確かにあんまり遅くなっても困るしな、戻るか」
 
 
 ――とまぁ、そんな遣り取りから三十分後。
 人気の無い山道のど真ん中で、俺は車を停めた。理樹が不思議そうにこっちを見る。
「どうしたの、恭介」
「――理樹。大事な話がある」
「え…?」
 戸惑うように、理樹の大きな黒瞳が揺れた。
 俺は真剣な眼差しで理樹を見つめ――。
「…すまん。迷った」
「恭介の馬鹿ーー!?」
「いや、一本道だから迷うはずは無いんだが…。これぞミステリーじゃないか、なぁ理樹!」
「そんな目をキラキラされてもっ。ていうか、どうするの…。こんなトコ、滅多に車も人も通らないよ!?」
「まぁ落ち着けよ。こういう時の為に携帯があるんじゃないか」
 理樹は無言で携帯を取り出し、画面を俺に向ける。
「恭介」
「ん?」
「圏外」
「なにぃぃぃ!?」
「どうするのさ!?」
「――とまぁ、冗談はさておき」
 理樹が疑り深い目で俺を見ている。
「まぁ何だ。宿の方向なら大体分かる」
「え?」
 理樹の手元の地図で、位置を指し示す。
「今いるのは多分この辺だ。で、俺達の宿がここだから――」
 窓から顔を出して、太陽の位置を確かめる。方向感覚に間違いはない。
「宿はあっちだな」
「…分かるの?」
「伊達に徒歩で旅してないからな。問題は宿に通じる道探しだが…ま、心配するな」
 安心させるように、理樹の頭を撫でてやる。理樹は少し照れくさそうに笑った。
「何か、恭介の傍にいたら一生不安なんて感じないかもね」
「ははっなら一生傍にいろよ」
「え…」
 何気なく言った俺の言葉に、理樹は頬を紅潮させた。それから俯いて、小さな声で一言――「うん」とだけ。
 車内に微妙な空気が流れる。
 ……。
 何か、こっちまで照れてきたな…。別に深い意味はなかったんだが。
”僕は恭介の事が好きなんだ!”
 ってなぜ今思い出す!?
 だからだな、確かに俺は理樹が一番好きだが――、一番、理樹が……。
「だぁぁぁぁっ!?」
「うわっ!?何、どうしたの恭介??」
「理樹!」
「は、はいっ?」
「地図を見ろっ」
「え?う、うん…」
「よし。帰るぞ」
「み、道は?」
「根性で捜すさ!」
 グンっとアクセルを踏み込んで、元来た道を戻る。バックで。
 隣で理樹の悲鳴が聞こえたが、それは直ぐに楽しそうな笑い声に変った。
「ね、恭介」
「ん?」
「ずっと一緒にいようね」
「――ああ」
 理樹の顔が赤いから、それが俺にまで伝播する。以前なら、平然と受け取ったはずの台詞だ。
 俺達の関係は一見すると何も変らない。それでも――それでも、何かは変ったのだろう。
 問題は、多分色々ある。だがまぁ、悪くない。
 むしろ、最高だ!
 
 
 
 
 
 

あとがき
 多分長編連載の序章になります〜。目指せほのぼのラブ!
 話の構想が先の先まで出来てるので…。
 そりゃもう籍を入れるまで!(笑)恭介と理樹の視点を度々入れ替えながら進めていく予定。
 ただ仕事の残業状況が中々厳しくなってきたので、そろそろ亀の更新に戻ってしまいます…。
 更新週一っすかねぇ…。
 学生に戻りたいよぉー。

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