君と僕の軌跡・3.5

「でも実際問題、恭介さんって理樹君の事どう思ってるんデスカネ?」
 それは、修学旅行と言えば定番の、女子だけの夜の座談会を開催している時だった。
 お菓子も話題もそろそろ尽きてきた所で、葉留佳の突然の発言である。
 今朝仲良く朝食に遅刻してきた恭介と理樹に、一時あらぬ疑いが飛び交い、その誤解が解けたとはいえ、確かに興味をそそる話題ではあった。
 来ヶ谷が面白そうに目を瞬かせる。
「どう、とは?」
「やはぁ〜、あの二人ってなーんか怪しい雰囲気あるから、そこんトコどーなのかなぁって」 
「ふむ。西園女史はどう思う。」
「わたしですか?そうですね…」
 目を伏せた美魚の頬が、僅かに赤らむ。
「…王道です。恭介さんと直枝さん…理想ですね」
「何だ?理樹ときょーすけがどうかしたのか?」
 鈴が、不思議そうに皆を見回す。その鈴に、美魚が話を振った。
「恭介さんと直枝さんは、鈴さんの目から見て、どうですか?」
「あいつらか?…仲良いな」
「もう少し具体的に」
「む、難しいな…」
 腕組みをして、鈴は眉間に皺を寄せる。
「理樹は、きょーすけがどんな馬鹿言っても何か律儀に付き合うな。きょーすけも、理樹だけは必ず巻き込むな。
というか、よく同じこと考えてたりするし、あいつらテレパシーでもあるんじゃないか?」
「なるほどなるほど」
 美魚は、我が意を得たりとばかりに深く頷いた。
「通じ合う心。通じ合う想い――まるで恋人です」
「わふー!リキと恭介さんは、ラバーなのですか!」
「な、なにぃっ?」
 何やら楽しげに驚くクドの隣で、鈴が毛を逆立てる。それに構わず、美魚はうっとりと続けた。
「いいえ、最早夫婦かもしれません。赤い糸で結ばれた運命の相手…そんな伴侶に出会えた恭介さんと直枝さんは、幸せですね…」
「夫婦ですか!それはらぶらぶなのですー」
「あ、あいつらラブラブ夫婦なのか!?でも二人とも男だぞ?何だ、もしかして理樹は女だったりするのか!?」
 瞠目する鈴の前で、何を想像したのか、美魚がぽっと頬を染める。
「女体化直枝…有りです…!」
「じゃ、じゃあ理樹は恭介の嫁で、あたしの義姉か!?」
「まぁ落ち着け、鈴君」
 混乱し始めた鈴に、来ヶ谷が声を掛ける。
「理樹君は男だ」
「そ、そうか…。ん?じゃあどうなるんだ?」
「うむ。理樹君が恭介氏の嫁になるとすると、理樹君は鈴君の義兄、という事になるな」
「やはぁ〜姉御。それはちょっと違うよーなー…」
 葉留佳の遠慮がちな指摘が入る。しかし鈴は聞いていなかった。
「あに…理樹が、あたしの兄か…」
 呟き、そして次の瞬間満面に笑みを浮かべた。
「それ、いいな!」
 あの二人が結婚したら、理樹も鈴の家族になる。そうしたら、何があってもずっと一緒だ。
 それに、あの二人が一緒なら、今ここにいるみんなも、ずっと一緒にいられる気がした。
 物凄い名案を思いついたかのように、鈴は得意気に全員を見回す。
「あいつらが結婚したら、全部うまくいく気がする。皆協力してくれ!」
 俄然張り切る鈴を、来ヶ谷が呆気にとられたように見る。
「しかし…いいのか、鈴君」
「何だ」
「ホモショタロリの三重苦だぞ」
「ん?……ぅっ…!?」
 鈴が引きそうになった瞬間、その手を握り締めて引き戻したのは、美魚だった。
 一体その細腕のどこにそんな力があったのか、というくらい凄い勢いで、鈴の両手をしっかり捕まえる。
「いいえ!大丈夫です。まず直枝さんを選んだ時点で、ロリ疑惑が消えます」
「何、消えるのか?」
 それはいいじゃないか、とやや乗り気になる鈴に、美魚は畳み掛ける。
「直枝さんは童顔ですが、高校生です。厳密にはショタとは異なります。ゆえにショタ疑惑も消えます」
「そ、そうか…それなら…」
「でもホモだぞ、鈴君」
 来ヶ谷の一言に、再び固まる鈴。だがそんな事でめげる美魚ではない。
「いいえ!ホモではありません」
「違うのか?」
「BLです」
「びーえる??それはホモとは違うのか?」
「違います」
 美魚はきっぱりと言い切った。
「BLは少年愛――美しさを追及した…」
「西園女史、そこまでにしておけ、鈴君が混乱している」
「やはぁ〜みおちんの情熱の程はよく分かったですケドネ?」
「あ、…す、すみません…」
 来ヶ谷と葉留佳に話しかけられ、美魚は慌てて掴んでいた鈴の手を放した。
 鈴は結局よく分からなかったようだ。ふと、小毬の方を振り向く。
「こまりちゃんはどう思う」
「ふえ、私?」
 それまで傍観者に徹していた小毬は、考えこむように小首を傾げた。
「うーんと。恭介さんとぉ、理樹君。お互いがお互いを、すごぉく大事に思ってるよね?」
「うん。あたしもそう思う」
 ちりんと鈴が頷く。そこへ来ヶ谷が割って入った。
「しかしそれは、家族愛と似たようなものじゃないのか?」
「ううーん?」
 少しばかり悩んで、小毬はニッコリ笑う。
「ううん?ちょっと違う気がするよ?」
「どう違う?」
「えっとですねぇ。理樹君はぁ、恭介さんに…どきどきっ、てしてたりするよねぇ。でも何か憧れっぽいかなぁ。
それから恭介さんは、理樹君に時々、…ムラムラ、ってきてたりするよね?」
「む…」
 来ヶ谷が言葉に詰まり。
「なるほど……確かに!」
 美魚が思わず手を打ち。
「そういえば、称号とかそれっぽかもデスネ」
 葉留佳が納得し。
「わふー!恭介さんが理樹に…それはドッキドキなのです!」
 クドが目を丸くし。
「な、何だどういう事だ?っていうかあの馬鹿兄貴は理樹に何をする気だ!?」
 鈴がついに理解した。次いでがっくり項垂れる。
「やっぱり、うちの馬鹿兄貴は変態だ…」
「それは違うよぉ、鈴ちゃん」
「こまりちゃん…。でもホモだ」
「ううん。恭介さんがムラムラっときちゃうのは、理樹君だけ。…だから、違うよ?ホモさんっていうのは、男の人全部にムラムラしちゃうんだから」
 多少語弊はあったが、鈴の混乱を避ける為、他の女子メンバーは敢えて突っ込まない。
 小毬の説明に、鈴の顔にほっとしたような表情が浮かぶ。
「じゃ、きょーすけはホモじゃないのか?」
「うん。違います」
「そうか…良かった…」
「でもほんとに、恭介さんと理樹君、ずっと一緒にいてくれればいいねぇ。そしたら皆ずっと一緒にいられそうな気がするのになぁ」
 小毬の言葉に、鈴が瞠目する。
「こまりちゃん。あたしもさっき、そう思った」
「そっかー」
 にっこり微笑む小毬の手を、鈴は思わず掴む。
「こまりちゃん。あたしは皆とずっと一緒にいたい。あいつらが一緒になれば、何か大丈夫な気がする」
 あの二人は、輪の中心にいる。
 恭介だけでも、理樹だけでも、駄目なのだ。
 どちらかが欠けただけで、多分リトルバスターズは、いずれ消えていく。
 だが、あの二人が一緒にいれば――リトルバスターズは永遠だ。本当は誰もがそれを知っている。
 鈴は、握る手にきゅっと力を込めた。
「それに――あたしは」
「うん」
 小毬は優しい目で鈴を見つめる。
「…あたしは、あの二人には、絶対絶対幸せになってほしいんだ」
「うん!……鈴ちゃんは、いい子だねぇ」
 嬉しそうに微笑んで、小毬は鈴の頭を撫でた。そして、よぉっし、と気合を入れた。
「大丈ー夫!鈴ちゃん、協力するよ!理樹くんと恭介さんの事、皆で応援しよ?」
「――うん!」
「じゃ、皆も、おけー?」
 言うまでもない事だが。
 無敵の笑顔で振り向く小毬に、逆らえる者などいるはずもない。
 クリティカルヒットを食らった来ヶ谷が、まず最初に提案した。
「うむ。では、理樹君の女装写真で、恭介氏を揺さぶるというのはどうだ?」
「うん、いいねぇ」
「それは名案なのですぅ!」
「直枝さんの女装写真に悶える恭介さん……有りです…!」
「流石は姉御!」
「え、ええと…あ、あたしもそれでいい」
「それじゃあ今から理樹君を拉致りにレッツゴー!」
「うむ、葉留佳君。よろしく頼んだぞ」
「任せて下さいヨ!」
「じゃぁ、ミッションスタート!だよぉ」

 こうして、果てしなく騒がしいまま、修学旅行の夜は更けていった――。

 
 
 
 
 

あとがき
 理樹の恭介への好きって、ほんと何か乙女なんですよねぇ。
 称号から察するに、恭介の理樹への好きの方がなんつーか、たまに肉欲っぽい…。胸元はだけさせたら反則とか…。
 明らかにムラムラきた事あるだろ、という気が。でも奴は完璧人間なので、隠しも完璧なはず。
 少なくとも理樹本人には完璧に隠し通すでしょう。
 
 拍手ありがとうございます!!何か色んな筋肉さんがこむらがえってきましたっ!!
 やべぇあれもこれも書きたくなってきたっ…身体が二つ欲しいっす(若しくは眠らなくて済む脳(笑))

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