君と僕の軌跡・4

 リトルバスターズ修学旅行から一週間後。
 朝、僕が席に着くのと同時に、来ヶ谷さんが封筒を差し出してきた。
「少年、これをやろう」
 結構分厚い。
「これ何?」
「写真だ。修学旅行のな」
 そういえば、確かに写真を撮りまくってた気がする。
「そっか、写真かぁ。ありがとう。あ、お金は?」
「いらん。学校の備品を使ったからな。それに寧ろ礼を言うのは私の方だな。中々どの写真も美味しく頂けたぞ」
 それはどいういう意味なんだろう…追及しちゃいけない気がする…。
「因みにな、少年。例の写真も入れておいたからな。君にだけは特別タダで提供しておく」
「例の写真…?」
 何だろう?特別にタダって事は、他からはお金取ってるって事かな?
 気になって、封筒を開けてみる。
 晴れた青空と海の中で、皆の笑ってる写真がトップだった。そういえば、初回は日帰りで海だった。思わず頬が緩む。
 うん、楽しかったなぁ。水を掛け合ったり。スイカ割りをしたり。
 海の写真が終わると、二泊三日の修学旅行だ。結構撮ったんだなぁ。ていうか、全然撮られてたの知らない写真が一杯あるよ。
 恭介と一緒に御飯食べてる写真とか。真人と遊んでる写真に、謙吾のジャンパー着てみた奴とか。
 あはは、そうそう、恭介がふざけて俺にも着せろとか言って、僕に襲いかかって――って、こんな風に見えてたんだ…。
 西園さんじゃないけど、この写真、ちょっとまずいかも…。
 うん?もしかして、例の写真って、これの事かな?別にお金取るほどのものじゃないと思うけど…。
 その後何枚か写真をめくったところで、真人がやってきた。
「おう、理樹も写真もらったのか?」
「うん。真人も?」
「まぁな。恭介の分も一応預かってきたぜ」
 僕の隣の席に座って、真人も早速封筒を開ける。僕も写真に視線を戻して、まためくっていく。
 夜のまくら投げ。あれ、そういえばこの次の日って、僕と恭介になんだが有らぬ疑いが掛けられたんじゃなかったっけ…。
 まぁもちろん誤解は解いたけど。でも、だったらどうして二人で仲良く朝食に遅刻したのかって詰め寄られて――そうだ、この日の夜って確か……。
「うあ!?」
「ん?どうした理樹?」
「なななな何でもないよっなんでもないから」
 僕は慌てて手元の写真を隠した。
 そうだった忘れてた!夜中に僕は女子メンバーに連れて行かれたんだった。
 恭介と僕が朝食に遅刻した理由を吐けって詰め寄られて、でももちろん言わなかった。一晩中泣いて瞼が腫れてましたなんて言えるわけないし。
 問題はその後だ。
 来ヶ谷さんの訳の分らない突然の提案で――僕は、女装…させられ…!
 あああああぁぁ!なんて写真を撮ってくれたんだよぉ!ご丁寧にかつらを被って化粧までされてっ!
 これは、絶対誰にも見せられないっ。
 ていうかこの写真どうしよう?捨てるに捨てられないし、隠すしか…いやでも誰かに見つかったらどうしよう。
「なぁ理樹」
 やっぱり来ヶ谷さんに返すべきかな。
「おい理樹」
 部屋はまずいよね、真人もいるし。
「おいってば!」
「わ、何、真人?」
「大丈夫か、ボーっとして」
「う、うん。それより何?」
「あー、それがよ、間違って恭介の方の封筒開けちまったんだけどよ」
「別にいいんじゃない?皆同じでしょ」
「それがな、俺のには入ってない写真があったんだよ。――こいつ」
 ひょい、と真人が差し出したのは――僕の女装写真!
「まっ真人!ち、ちがうんだよっ別に好きでそんなっ…!」
「見たことない女子だろ?けどさー、この宿俺らが泊まったトコだよな」
 気づいてなかった!
「で、違うとか好きとか何の話だ?」
「いえ、何でもないです…」
「そっか?ま、いいけどよ。つか、何で恭介のだけに入ってんだ?」
 そうだよ、どういうつもりさ来ヶ谷さん!?何で恭介にこんな写真渡すの!?
「ま、真人、それきっと間違いじゃないかな…。来ヶ谷さんに返そうよ」
「ん?んー…」
 いや、何で悩むのさ…。素直に返そうよ。
「どうした、少年」
 来ヶ谷さんがやってくる。真人は写真を来ヶ谷さんに差し出す。うんうん。返そうね。
「この写真だけどよ」
「ん?ああ…恭介氏用のを開けたのか?」
「間違ってな、でよ、この写真――俺貰ってもいいか?」
 は…?
「ななな何言ってるのさ真人!?」
「なんだ、理樹も欲しいのか?」
「いらないよっ」
「そっか?けどこの女子、なんかすげぇ可愛くね?」
「いやいやいや!」
 来ヶ谷さんに助けを求めて振り返る。来ヶ谷さんは暫し思案してから言った。
「ふむ。一枚500円だ」
 売るんだ!?
「うし、買った!」
 買うんだ!?
「いやいやっ、ちょっと待ってよ。落ち着いて二人とも!」
「俺は落ち着いてるぜ?」
「右に同じくだが」
 ああ、焦ってるのは僕だけ??
「真人!そんな写真買ったって筋肉は付かないよ?500円もするし」
「そうなんだよ、そうなんだけどなー。何かこの写真の子から目が離せなくてよ…。もしかすると俺の運命の相手かもしれねぇ…」
「いや、無いから。それは絶対」
「何でだよ!どっかで偶然運命的に出会っちまうかもしれねぇだろ!?」
 いや、毎日会ってるからね?
「フッ…モテモテだな、少年」
「嬉しくないから」
「ふむ、まぁ相手が真人少年ではな。案ずるな、写真は後でちゃんと恭介氏にも渡しておこう」
「渡さないでよっ!」
 何考えてるんだよこの人はっ。
 
          *
 
 結局写真は、真人の手に渡ってしまった。部屋に戻っても、なんか嬉しそうに眺めてるし。
 真人、今まで女の子に全然興味なんて示さなかったのに…。
 しばらくすると、謙吾と恭介、それから鈴が顔を見せた。いつも通りのメンバーが部屋に揃う。
「恭介、来ヶ谷から写真預かってるぜ?」
「ああ、修学旅行のだろ。じゃぁ早速」
 真人から封筒を受け取って、恭介が写真を捲る。写真を見ながら思い出しているのか、楽しそうな横顔。
 思わず見とれていると、背後から謙吾と真人の会話が聞こえてきた。
「ん?おい真人、その写真は何だ?」
「お?これか。ふっ俺の運命の相手だ」
「お前の運命の相手だと?…それは何とも哀れだな」
「なんだとー!?」
「どれ、どんな奴だ」
 ちょっと待って!?それはマズっ…!
「ほう…可愛いじゃないか!しかし、誰だ?」
 バレてなかった!
 いや、まぁ…確かに自分でも正直引くくらい、まるっきり女子に見える写真なのは否定しないけど。
 髪型と化粧に服までだもんね…。僕だって自分で見て「誰っ?」ってビビったくらいだし。
 写真も多少ブレてるし、考えてみると、僕だと思って見ない事には、確かに気付かないかもしれない。
 色々複雑だけど、バレなくて良かった…。
「誰だか分かんねぇから運命の相手なんだよ。な?可愛いだろ?」
「ふむ、確かにこれは可愛いな」
「だろ!」
 うう…何か異様に恥ずかしいんですけどっ。
「何だよ、そんな可愛いのか?」
 って恭介っっ!
 いつの間にか真人と謙吾の傍に移動した恭介が、二人の間から写真を取る。
「お、確かにこりゃ可愛いな。…ん?」
 恭介が眉を顰める。
「あれ…この子、どっかで見たような」
 ギク!
「え、マジでか!」
「ああ。見覚えあるな。けど、こんな可愛い子なら忘れるはずないんだが。――まさか…!」
 うわああヤバい!恭介勘良すぎ…!
「こいつが噂のデジャヴって奴か!こんな所で運命の相手と出会っちまうなんてな…」
 単なるマンガの読み過ぎだった!
 いや、いいけどね…。
 だけど真人は良くなかったみたいだ。恭介に食って掛かる。
「待てよ!この子は俺が先に見つけたんだぞ!?」
「先とか後とかじゃないだろ、こういうのは」
「なんだとこの野郎っ…やるってのかよ!」
「ふ、二人とも落ち着いて!ね?」
 慌てて僕は、真人と恭介の間に割って入る。
 この会話が長引くと、恭介辺りが悪ノリして「勝った方がこの子と付き合う」みたいな展開に為りかねない。
 下手をすると――写真の「女子」が僕だとバレる。それはマズイ。物凄くマズイ。
「さっきから、一体皆して何の写真を見てるんだ?」
 ひょいと顔を覗かせた鈴が、恭介の手から写真を抜き取る。そして、驚いた様子もなく、頷いた。
「ああ、これか」
「何だ、知ってるのか鈴」
 恭介の言葉を、ちりんと肯定する鈴。
「知ってる。これならあたしも持ってる」
「何でお前が持ってるんだ」
「くるがやがくれた。記念にって」
 あ、なんか嫌な予感。
 真人が不審そうに鈴を見る。
「記念って何の記念だよ」
 ヤバい!
「鈴ちょっと待っ…!」
「修学旅行の記念だ」
 …あ、何だ、そっちか。
 恭介が写真を見直し、ああ、と合点する。
「そういやこれ、俺達が泊まった宿の部屋だな」
「うん、部屋で撮った奴だ。あとそれからな」
 鈴が、凄く嬉しそうに僕に写真を見せた。
「この女装した理樹は可愛かったな!」
 あ………。
 ――沈黙。
 うん。まぁそうだよね。鈴は言うよね。言っちゃうよね……。
 茫然と固まる男三人。まず真人が眼を見開いた。
「はっ!俺は今っ幻聴を見ていた!」
 普通聞くものだけどね。
「う、うむ…いや俺も、今のは正直理解に苦しむのだが」
「――鈴。お兄ちゃん耳が悪くなったみたいだ。もう一度頼む」
 謙吾と恭介は、幾分引き攣った表情だ。鈴は分かっていない。不思議そうにもう一度言った。
「だから、理樹の女装は可愛かった。お前らもその写真見たら分るだろ」
「「「なにぃぃぃぃ――!!!???」」」
「な、何だ?何でそんな驚いてるんだお前ら」
 いや、そりゃ驚くよ…。三人とも、写真に写ってるのが、女子だと思い込んでたみたいだし。
 人間って髪型と化粧と服装で、随分と印象が変わるものだよねぇ……。
 って他人事じゃないんだけどさ。
「理樹、お前っ…」
 真人が、目をまん丸にして僕を見ている。
 もしかして、女装趣味があるとか思われた!?
「お前女だったのか!」
 違った!
 次いで、謙吾がひどく申し訳なさそうにこっちを向く。
「すまない、理樹。今まで気づかなくて悪かった…」
 いや謙吾もおかしいっ!
「理樹…」
 恭介の真面目な声。――まさか。
「お前…女だったのかよ!?」
「いやいやいやっ」
「え!?理樹は女だったのか?」
「鈴も驚かないっ!てか信じないでよっ。僕男だからね?」
「その自分で言い張る所が怪しくねぇか?」
「ねぇから」
 思わず真人に厳しく突っ込む。が、真人はそれでも諦めない。
「いや、怪しいな…怪しいぜ…」
「全然怪しくないからさ」
「ふむ。まぁ理樹が女子だと言われると――そう見えるな」
「見ないでよ謙吾!」
「確かにぶっちゃけ違和感ないな」
 恭介まで!?
 鈴は、何やら腕組みして考え込んでいる。どうしたのかな…。
「うーん…なんかこれにぴったりな言葉を知ってる気がする…。分かったアレだ!」
「あれって?」
「『お前実は女だったのかよ』から始まる恋だ!」
 ん?なんか僕もどっかで聞いた事あるなぁ、それ。どこで聞いたんだっけ…?
 気がつくと、恭介がすごく優しい顔で鈴を見ていた。
 ――ああ、もしかして。
 僕は気付く。…あの世界で、聞いたのかもしれない。
 まだあの世界の全てを思い出せる訳ではないけれど。きっと全て思い出す事は出来ないんだとしても、感じた想いを忘れたりはしない。
 僕も、そしてきっと鈴だって。忘れるわけが――ないから。
 恭介の嬉しそうな顔に、僕も嬉しくなった。
「――そうか。そこから始まる恋か。大いに有りだな!」
 言った恭介の顔が、ふと僕に向けられる。
「恋ねぇ」
 釣られたように、謙吾と真人もこっちを向いた。
「恋、か」
「そっか恋か!」
「「「(じ――)」」」
 いやあの何かなその目…。
 男三人から滅茶苦茶熱い視線を注がれてる気がするんですけど!
「理樹っ!」
 真人が突然僕の右手を握る。
「好きだ!」
 いやいやいや!?
「理樹」
 今度は謙吾が僕の左手を握った!
「お前は俺が一生守る。だから俺のものになれ」
「いやあのさ」
「――理樹」
 え、まさか恭介…。
「俺達結婚しよう!」
 うわぁぁぁもう何が何だか!?
「ちょっと待ってよ落ち着いて?そもそも僕男だからね!?そこんトコ分かってる??ほら、鈴も何か言ってやってよ!」
「分かった」
 力強く頷いて、鈴は辺りを睥睨した。
「いいかお前ら。理樹はきょーすけの嫁だからな。横恋慕はめっ!だ」
 えーと。
 何だろう、フォローされたのかな…?どっちかっていうと、トドメを刺された感があるけど。
「り、鈴…?何でそういう事になってるの…?」
「ん?だって結婚するんだろ?きょーすけが今そう言った」
「いやいやいや!」
「何だ、嫌なのか?」
 そんな不思議そうに言われても困るんだけどさ。
「嫌とかじゃなくてね、無理っていうか…」
「何だ、嫌じゃないのか」
「え?あ、まぁ…」
 ってそれはどうなんだ!?男でも恭介なら……っていやいやいや!
「じゃあ問題ないな。理樹ときょーすけは上手くいくな!」
 とっても満足そうに鈴は頷いている…。
 真人と謙吾は「妹公認かよ…」「いきなりプロポーズとは…!」とかよく分からない事を言って敗北ムードを醸し出している。
 勝者らしい恭介はといえば、僕と同じく、何やら複雑な表情で鈴を見ていた。
 鈴はちりんとスズを鳴らして身を翻す。
「じゃ、あたしはみおに報告してくる」
「ってちょっと待った!!」
「ん?どうしたんだ理樹」
「そこで何で西園さん!?」
「二人が上手くいったら一番に教えてくれって言われた」
 鈴に何か色々吹き込んだの…西園さんだな…。
「あのね、鈴。僕と恭介で結婚ってのは無理だからね?」
「じゃあ、付き合うだけなら問題ないか?」
「まぁ、それなら…」
 ってだから違うってば!何肯定しちゃってるんだよ僕は!
「ええと、だからっ……。きょ、恭介!ほら、何か言ってよ」
「え?俺か?」
「きょーすけは理樹が嫌いなのか?」
「んな訳ないだろ」
「じゃ、付き合え」
 うわー恭介には容赦ないな。恭介も困ってるし。
「付き合えって、お前なぁ…」
「何だ、嫌なのか?」
「嫌じゃねぇよ」
 …そっか…嫌じゃないんだ…。
「なら、理樹と付き合え」
「そうは言っても、……理樹が嫌かもしれないだろ?」
 えっ?僕!?
「じゃあ理樹。きょーすけと付き合うのは嫌か?」
「え、…あ…嫌じゃ、ない…けど…」
「なら問題ないな!」
 鈴は勝ち誇ったように宣言する。
 僕は思わず恭介を肘で突っついた。
「恭介っ。何で嫌だって言わないんだよ」
「仕方ないだろ、嫌じゃねぇんだから。大体それ言ったら、お前だってそうだろ?」
「それはっ…仕方ないじゃないか。僕だって嫌じゃないしっ。ほら恭介、鈴に嫌だって言ってよ」
「俺かよ!お前が言えよ」
「何でさ」
「だから言ってるだろ、俺は嫌じゃないって」
「僕だって嫌じゃないよ!」
「――何だ、お前らバカップルか?」
 鈴の正直な感想に、僕と恭介は固まる。
 ……ごめん、僕も今そう思った…。
「お前ら、もういい加減付き合え」
 怒ったように、腕組する鈴。何か言わないと――そう思って身を乗り出した僕を、恭介が手で制す。
 僅かに振り返り、任せておけ、と目で伝えてきた。
「――鈴。お前はそれでいいのか?」
「いい」
「俺達が付き合ったら、俺は理樹を一番優先する。当然お前らと遊ぶ時間も減る」
「別に気にしない。困るのは馬鹿二人だ」
 まぁ、今の鈴は女友達がたくさんいるからなぁ。最近は僕らと別行動も多いし。
 あ…恭介の額に汗が見える…。
「そ、そうか。…だけどな、鈴。理樹とも遊べなくなるぞ?理樹も俺を優先するようになるからな」
「――」
 ちょっと鈴が困ったような反応を見せる。そこを恭介が畳掛ける。
「そうなったら理樹はいつでも俺にベッタリだ。鈴が困ってても助けてくれないぞ。それでもいいのか?」
 いや、それは絶対ない。二人で鈴のトコに駆けつけると思う。
 だけどそれを言っちゃうと、また鈴が「じゃあやっぱり付き合え」って言い出すだろうしなぁ。
 鈴は視線を落として考えた後、僕たちを見上げた。
「それで、二人は幸せなのか?」
「え?」
「二人が幸せなら―――あたしは、いい」
「―――」
 これには……恭介も、僕も――何も言えなかった。
 まさか鈴が、そんな風に思ってくれるなんて。
「きょーすけと理樹が幸せなら、……あたしは、それが一番嬉しい」
「鈴、お前……」
 呆気にとられる恭介を見ながら、ああ何か…兄妹なんだなぁ、と僕は思った。
 恭介もきっと、鈴と同じ事を思ってる。
 時々恭介は、僕と鈴をくっつけたがる。多分、今の鈴と同じなんだ。
 鈴はニコリと晴れやかに笑う。
「だから二人とも付き合え!」
 ってああ!その問題が残ってたっ。感動してる場合じゃなかったよっ。
 恭介は、じっと鈴を見つめ――不意に柔らかく笑った。
「本当に、それでいいんだな、鈴」
「しつこいっ。いいって言ってるだろ」
「――分かったよ」
 ……えっ!?分かっちゃうんだ恭介!?
 鈴は凄く嬉しそうだけど!
「じゃ、みおに報告してくる!」
 意気揚々と部屋を出ていく鈴。
 振り返った恭介の額には一筋の汗。
「すまん。付き合う事になっちまった」
「って恭介!本気!?」
「まぁ、何とかなるだろ」
 何とかって……。適当だなぁ。
「――という訳だ、そこの敗北組」
「誰が敗北組だ!」
「てめぇっ人が気ぃ使っておとなしくしててやったってのにっ」
 あ、謙吾と真人…そういえば、部屋の隅で落ち込んでたね…。
 謙吾は僕と恭介を交互に見て、
「で、お前ら本当に付き合うのか?」
 至って普通の態度で聞いてくる。
 えーと…。
「まぁ、一応な」
 あっさり恭介が肯定していた!
 真人が愕然となる。
「マジか…マジで付き合うのかお前らっ!?じゃあ俺と理樹の遊ぶ時間が減っちまうじゃねぇかよぉぉぉ!?」
 何かマジ泣きしていた!
「部屋も恭介に譲るのか!?俺一人土管で暮せってか!?」
 どっかで聞いたような…。ていうか、そこまでしなくても。
「別に今まで通りでいいぜ?寧ろ今のままで頼む」
 恭介の言葉に、一気に真人の表情が明るくなる。
「よっしゃー!流石恭介だぜっ」
「ふむ。…お前らがなぁ。遂に、か…そうか」
 喜ぶ真人の隣で、謙吾が妙にしみじみと呟く。
 何か、本当に付き合っちゃうような雰囲気なんですけどっ!?
 僕は思わず隣の恭介を見上げた。気付いた恭介が、優しく目を細める。
「どうした?」
「え?いや…うん…」
 お、思わず赤くなって俯いてしまった……!
 まぁ、どうせ恭介の事だから、鈴が喜ぶから暫くそういうフリをしよう、ってだけなんだろうなぁ。
 だけど、いいか。
 西園さんに報告されるって事は、少なくとも、女子メンバー全員に知られちゃうって事だよね。
 あの面々なら恭介の悪ノリには慣れてるし、そんなに問題もないかな。経緯を説明すれば、協力してくれそうだし。
 だけど――そっか。フリとはいえ、恭介と付き合うのか…。
 う、わ……!
 な、な、何か凄い照れるっ!?
 どんどん上がっていく体温に、僕は暫しの間顔を上げられなかった…。

 
 
 
 
 

あとがき
 個人的に、お母さん→理樹 お父さん→恭介 二人の子供→鈴 が本命スタンス(笑)

 あ、すいません…。女装編すっ飛ばしました…。いえ、この後に再度似たような場面を予定しているので、
 そっちで理樹の可愛さをアピールしようかと(笑)
 女装は番外編みたいな形でそのうちupするかもしれません。なんたって理樹君の標準装備ですもんね〜。
 でもって、そろそろホントに更新が亀になります!お仕事忙しくなってきちゃいましたぁ。おそらく週一ペースかと…。
 でも溜めておけない性格なので、書いたら即up(笑)

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