君と僕の軌跡・5

 その日の朝は、いつもと少し違った。
「……?」
 何だろう?朝、食堂に向かう道すがら、妙に周りの視線を感じて、僕は思わず自分の服装を見直す。
 特におかしな所はないよね?
 隣の真人を見上げてみる。うん、別に真人もいつも通りだし。
 うーん…気のせいかな。
 昨日、恭介と付き合う、みたいな事になっちゃったから、自意識過剰になってるのかも…。
 恭介と………うわっ…。
 つ、つつつつ付き合うんだ…!いや、フリだけど!
 ぶんぶん頭を振っていたら、真人が不思議そうに僕を見た。
「どした、理樹」
「う、ううん。何でもないっ」
 落ち着け落ち着け!普段通りでいいんだから。フリだしね?
 そんな事より朝御飯だ。うん。
 食堂に着いて食券を買う。さっさと決めた真人は先に中へ。
 僕も少し迷ってから、無難にA定食にした。
 食堂の中に入った所で、クドに出会った。朝会うのは珍しい。
「おはよう、クド」
「あ、おはようございます。リキ」
 いつも通り挨拶を交わした後――何故かクドは、急に照れ始めた。
「あ、あの、リキ……その……」
「うん?」
「ええと…」
 どうしたんだろう?僕に何か―――あ。そっか、もしかして…。
「僕と恭介の事?」
「わふーっ!どうして分かったですか!」
「いや、そりゃあね…」
 昨日の時点で、女子メンバー全員に伝わってると思ってたし。
 丁度いいから先に言っておこう。これはいつもの恭介の悪ノリで、単なるフリだ。
 でも鈴が喜んでるから、そういう事にしておいて欲しいんだって。
「あのさ、クド。実は…」
「はいっ!わかってますっ」
「え…?そう、なんだ…?」
「はい、大丈夫です!急だったので、ちょっとびっくりしましたけど……鈴さんはとっても幸せそうでした!
是非私も協力させて欲しいのですっ」
 そっか。クドは知ってたのか。恭介が連絡したのかな?
「うん。巻き込んじゃってごめんね?」
「いえいえそんな!鈴さんが幸せなのは、リキと恭介さんが幸せだからです。ですから――お二人が末永く幸せに暮らせるようお手伝いなのです!」
「――は?」
 え?あれ?途中まで噛み合ってたのに、急に理解出来なくなったよ??
「ええと、クド?」
「任せて下さい、リキ!お二人のまりーろーど、見事私が作ってみせますからっ。わふー!」
「や、あの、ちょっ…待っ…」
 行っちゃった……。なんか著しい行き違いあるような気がするんだけど。
 っていうかマリーロードって何?結婚への道程?
「――少年」
「うわ!」
 突然背後から吹きかけられた息に首を竦める。
「く、来ヶ谷さんっ…」
「フフ…可愛いなぁ、理樹君。昨夜はちゃんと眠れたか?」
「え、まぁ…」
「おや。それは意外だ。てっきり恭介氏が寝かせなかったと踏んでいたのだが」
「???」
 言っている意味がよく分からない。
「あのさ、何を…」
「恭介氏に押さえ込まれ、嫌だと言いつつ抵抗出来ずに淫らにのたうち快楽に堕ちていく理樹君…ああ、エロ萌える…!」
「うわー!?ななな何言ってるのさっ来ヶ谷さん!?」
「それで?昨夜は何回だ?まさかあの恭介氏が一度で満足するわけがあるまい」
「いやいやいや!そもそも何もないからっ」
「――何だ、つまらん」
 よ、良かった…一応は分かってくれたみたいだ…。よし、さっさと説明しておこう。
「あのね、僕らは…」
「ほいほい身体を開くのもどうかと思うが、あまり焦らさないようにな?恭介氏が暴走なんぞしたら、誰にも止められん。
という訳だから、恭介氏のストッパーとして頑張ってくれたまえ、少年。少々悔しいが……陰ながら応援しよう。フフ」
 いや、フフじゃなくてさ。
「あのだから、根本的に話が食い違ってるんだけど」
「はっはっはっ。照れるな少年。ではな」
 来ヶ谷さんは颯爽と去っていく…。
 呆然とする僕の前に、次に現れたのは西園さんだった。僕を見るや、
「…おめでとうございます…。応援してますから、頑張ってください…!」
 ペコリと頭を下げた。そして頬を染めて足早に去っていく。
 説明する隙も与えてくれない。
 …ねぇ、ちょっと待ってよ皆。
 あの恭介の始めた事だよ?悪ノリや悪ふざけなんてしょっちゅうじゃないか。
 しかも相手は僕だよ?男だよ?
 ――何でマジにとるのさっ!?
 そこへのんびりとした声が掛けられた。
「あ、理樹くん。おはよ〜」
「小毬さんっ」
「ほぇ?どしたの?」
 あれ?何か普通だ…。もしかして小毬さん知らないのかな…?
「あのさ、僕と恭介の事なんだけど」
「ああ〜、大丈ー夫。皆分かってますよぉ」
 全てを達観したような微笑が神々しい…。
「よ、良かった…。何か皆、僕と恭介が付き合うのを本気に…」
「うん!大丈ー夫!皆で応援するよ?理樹くんと恭介さんはぁ、どーんっ…って胸を張ってればいーよー」
「いやいやいや!?」
 小毬さんも!?
「っていうか何でそんな応援ムードっ!?」
「あのね、理樹くん」
 小毬さんが優しい笑顔で僕を見る。
「理樹くんは、恭介さんの事が好き、だよねぇ?」
「え?…う、うん…」
「うん!恭介さんもぉ、理樹くんの事が好き。二人が一緒になったら、きっと幸せ。二人が幸せなら、私も皆も幸せ…。
ね!だから応援するんだよぉー」
 そ、そっか……。
 ――ってそもそも問題が摩り替わってるよね!?僕と恭介が付き合うのはフリであって本当じゃないんだし!
 そう言おうとしたけど……。
 一点の曇りもない小毬さんの笑顔に、思わず口を噤んでしまった…。
 何か、今更冗談でした、なんて言えるような雰囲気じゃないんですけど…。
 どうするのさ恭介!?
 心の中で助けを求めた瞬間―――まるで伝わったかのように恭介の声。
「――理樹」
「恭介っ」
 振り返ったそこには、恭介と葉留佳さんの姿。
 恭介の眉間には皺が寄っている。
「驚くなよ、理樹」
「…大丈夫。もうこれ以上驚いたりしないから」
 葉留佳さんもか。
 つまり、女子メンバー全員が鈴サイドって事だよね。先が思いやられるなぁ…。
 だけど恭介は、首を横に振った。
「そうじゃない」
「何が?」
「俺達、公認カップルって奴になっちまった」
「うん。鈴どころか、女子メンバー全員の公認になっちゃったって事でしょ?」
「違う」
「どういう意味…?」
 恭介は、眉間に皺を寄せたまま、一枚のビラを差し出した。

「―――全校生徒公認だ」
「……えええぇぇぇぇぇぇっ!!??」

 絶叫する僕の前で、葉留佳さんが、テヘっと笑った。

 
 
 
 
 

あとがき
 まだまだ先は長いです〜。とあるシーンを書きたいが為だけに始めたというのに、そこに行き着くまでが…
 長いわっ!

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