君と僕の軌跡・8

 良く晴れてる。いい天気だった。
 僕は中庭にいた。周りには誰もいない。
 今日は卒業式だ。さっき終わったばかりで、まだ皆校舎の中にいる。
 卒業式。
 そう、恭介は――今日卒業する。
 僕らより一年早く、この学校からいなくなる。
「――理樹!」
 恭介の声がして、僕は振り向いた。
 花束が走ってくる。
「悪い、遅くなった!待ったか?」
 両手で抱えきれないほどの花束の間から、恭介が顔を覗かせる。
「どうしたの、それ?」
「ああ…。あいつらに持たされた」
「皆に?」
 凄い花束だ。恭介は少し照れ臭そうに笑う。
「ま、あいつらなりの応援なんだろ」
「応援?」
 よく分からないけど、恭介は嬉しそうだ。
 卒業――するのに、嬉しいのかな…。
 そうだよね。喜んであげなきゃ。おめでとうって…。
「恭介」
「ん?」
「――天気、いいね」
 口から出たのは、そんな言葉だった。
 まだ、もう少し…待ってよ。もうちょっと話していたい。
 おめでとうって言ったら、――胸中に燻る、淋しさと辛さが、溢れてしまうような気がした。
「卒業式さ、…結構皆泣いてたね」
「ん?そうか?」
「―――恭介が、ゴンドラで登場するまではね…」
 そうなんだ。
 卒業証書授与式の、しんみりとすすり泣きの聞こえる中。
 だけど少なくとも僕達は予想していた。壇上に並ぶ生徒達の中に、出席番号が近くなっても恭介の姿がなかったから。
”棗恭介”――その名が呼ばれると同時に、蛍の光が突然ロックに変調。暗幕が引かれ、ライトが踊り。
 ついでに恭介も踊ってた。天井から降りてきたゴンドラの上で。
 いや、何ていうかさ…流石というか、恭介らしいというか…。
 ゴンドラからクラッカーをばら撒いて、皆を巻き込む事も忘れなかった。
”手にしたからには紐を引けぇ!”と声高に命令されて、一斉に生徒たちがクラッカーを鳴らし始め――あとはもうお祭り騒ぎだ。
 式の後、当然恭介は職員室にしょっ引かれて行った。
「でも、よくあんな事できたね?」
「ま、俺の人徳の成せる技だな」
 人徳とかいう問題じゃない気がするけど…。
「そういえば恭介。その……呼び出し、とかされてない…?」
 ふと、そんな事を聞いてみる。
 僕と恭介は付き合ってることになっていたけど。恭介の人気はそんな事じゃ無くならなかった。
 本気にした人も――本気にしてない人もいて。
 三年の女子には、ファンというのじゃなく、本気で恭介を好きな子が、何人もいた。
 恭介に告白する事を、僕に宣言してきた人もいた。
 きっと今日の恭介は、皆に引っ張りだこなはずで…。僕と、こんな所で話してる時間なんて、無いんじゃないのかな…?
 恭介は思案するように一度校舎を振り返る。
「呼び出し、な。――実は、だ。これからそいつらに、返事をしようと思ってる」
 言って、恭介は僕を見た。
「なぁ、理樹。覚えてるか?」
「何?」
「言っただろ、俺」
 …?何の事だろう…?
 首を傾げる僕に、恭介が告げた。
「付き合うのは…恋人は、”俺が卒業するまで”――そう言ったろ」
「――」
 何を……言われたのか。
 よく、分からない。
 淋しいとか辛いとか思ってた気持ちが、一気に冷えて固まった。
「きょう、すけ…?」
 何を言ってるの…?だって……だって。
 ”卒業するまで”――ああ、うん。確かに言ったよね。
 言ったけど。
 頭がぐらぐらする。
 思考が追いついていかない。
 確かに言ったけど――言ったけど。…言ったんだ。
 気持ちが凍り付いて、上手く反応できない。
 多分、今の僕は無表情だと思う。
 感情が――消えてしまったような感覚。
 そっか、そうだよね。
 きっと色んな女の子から呼び出されてるんだよね。
 うん。そりゃあ恭介だって女の子の方がいいに決まってる。
 そもそも――鈴が喜ぶからって始めたのが切欠だったわけだし。
 じゃなきゃ、恭介が僕と付き合うなんて、あるわけない。
 ――教室…戻らなきゃ…。
 僕がいたら、せっかくの告白の邪魔になる。
 ああ、でもその前に、せめて言っておかなきゃね。
「恭介。卒業おめでとう…」
「ああ、サンキュ」
 その笑顔に――叫びだしたいほどの衝動が込み上げて。
 でも、僕は、多分笑えたと思う。
 手も足も震えていたけれど。
 大丈夫、きっと笑えてる。
「じゃあ、…教室戻るから」
「こらこら。今更逃げるなよ」
 踵を返そうとした僕の肩を、恭介が掴む。その顔には、何かを企んだ子供のような笑み。
「ちゃらり〜ちゃちゃ〜ちゃらら〜。…さて、これは何でしょう?」
「――マイク…?」
 恭介が花束の中から取り出したのは、マイクだった。それを片手に、恭介はニヤリと口端を持ち上げる。
「いいか、理樹。絶対逃げるなよ?」
「…?」
 恭介が何をしたいのか、全然分からない。
「それからな、これから俺の言う事に、『はい』か『イエス』で答える事。約束な?」
「…って、それ同じ…」
「さて――」
 恭介は、マイクを手に校舎を振り返り、カチリ、とスイッチを入れた。
『聞こえてるかお前らーーー!』
 ”らーらーらーらー”と凄いエコーが掛かる。
 恭介の声に、校舎の窓が次々と開いて、全校生徒が顔を見せる。
 こんな大勢の前で、この人は一体――何を…。
『まず先に言っておく!俺と理樹が付き合ってるのは――マジだっ!』
 おおーっとどよめき。
 ってえぇぇぇ!?何でいきなりそんな話!?
「恭介!?な、何言っちゃってるんだよ!?」
『俺は理樹が好きだ!だから、理樹以外と付き合う気はない!』
 ――ああ。この人は、本当に……。
『それからもう一つ!俺たちは、今日で恋人の付き合いを卒業する!』
 え…?
 それ、どういう…?
『理樹』
 恭介が、僕の方を向く。
 そして、花束を差し出し―――。

『結婚しよう』

 ――頭の中が、真っ白になった。
 一瞬遅れて、怒号のような全校生徒のどよめき。それに紛れて、皆の声が聞こえる。

”いきなりすぎじゃーボケぇー!”
”もっとロマンティックな言い回しがあるだろうっ馬鹿者が!”
”チクショー俺も理樹にプロポーズするっ!”
”リキー!せいいえす、なのですーっ!”
”はっはっは!少年!おねーさんはごめんなさいでも、全然構わんぞっ。寧ろ歓迎だ!”
”やはぁ〜そりゃ無いッスヨ姉御ぉ〜。頑張れー恭介さーん!ほら、みおちんもっ”
”…す、末永くお幸せにっ…ごほっけほっ…”
”ほわぁぁぁみおちゃぁ〜ん!?えっとえっと、理樹くん恭介さんお幸せにぃぃ〜!ふぇぇぇみおちゃんしっかりぃ〜っ”

 ああ、何かもう、ムチャクチャだ。鈴がいつも言ってたけど――恭介は、ムチャクチャだ。
『理樹。――返事は』
 あんなに自信満々にプロポーズしたくせに、返事を待つ恭介の目は――真剣で。
 僕は花束に手を伸ばす。

 そして、約束どおり―――。

 
 
 
 
 

あとがき
 すいませんこれが書いて見たかったんです!!
 恭介に結婚しようと言わせたかっただけなんですけどね!単にこの一風景を書きたいがために、こんな長い話が出来ました…。(お前馬鹿だろ…)
 え、も、どうせなので無駄に結婚式まで書きますがっ。

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