君と僕の軌跡・番外編 皆で新婚旅行だ宴会だ!・前編

「ふむ。中々趣のある旅館だな。おねーさんは気に入った」
「老舗!って感じがナカナカですヨ」
「わふー!これぞ日本の情緒なのです〜!」
「…老舗の温泉旅館…やはり風呂上がりは浴衣でしょうか…」
「温泉か、うんっ面白そうだな!」
「えっとねぇ…ここの温泉いっぱい種類があってー、しかも大きいっみたいだよぉ」
「いよっしゃ!俺の筋肉泳ぎを見せてやるぜ!」
「泳ぐな、バカモノが」
 わいわい騒ぐ皆の後ろを、僕と恭介が一歩離れて付いていく。
 結婚式最後のミッションは、僕も恭介も見事全勝でコンプリートしたのだけれど。
 あんまり楽しかったから、結局そのまま、ノリで全員同行。まぁ、こんな新婚旅行も有りだよね?
 ちらりと隣を見ると、恭介もなんだか嬉しそうだ。ホントはこんな予想もしてたんじゃないかと思う。
 だって、人数分の宿の予約、すぐに取ってきたしね。まぁ、人数の関係上、部屋の方は六人部屋とかになっちゃったんだけど。
 でも、うん、やっぱり皆で来て良かった――そう思った時、不意に手を掴まれた。
 びっくりして恭介を見上げると、優しい目が見降ろしてくる。
「きょ、恭介…」
「どうした?」
「み、皆に見られちゃうよっ…!」
「別にイイだろ」
「っ…」
 こういうところ、恭介は全然気にしないんだよね…。いや、うん…新婚旅行、だしね?
 ちょっと位いいかな…。
「あー!理樹くんが恭介さんと手ぇ繋いでる!」
 葉留佳さんの一声に、全員がこっちを向いた。
 思わずばっと恭介から手を離してしまう。離してから、あっと思って恭介を見ると――。
「……理樹……そんなに嫌か…」
 あり得ないぐらい落ち込んでいた!
「いやいやいやっ!あの、ちがっ…今のは…!」
「成田離婚ならぬ温泉離婚、か。うむ、離婚調停の相談なら乗ってやるぞ、少年」
「あーあ、恭介さん落ち込んじゃいましたネ」
「わ、わふー……ふぁいとーなのですっ恭介さん!ちょっと拒まれた位で落ち込んではいけませんっ」
「……恭介さんと直枝さんの痴話喧嘩……これはいけます…」
「よく分からんが、馬鹿なりに可哀相だな」
「え、えと…が、頑張れーですよっ!恭介さん」
「大丈夫かよ恭介。なんなら筋肉分けてやるから!ほら、理樹も慰めてやれって」
「理樹、本気じゃないんだろう?」
 や、あの…ていうか、別にそんな深刻な事じゃ…ないよね…?
 でも恭介はまだ落ち込んでいる。
「えと、恭介?」
「何だよ、嫌なんだろ?」
「い、嫌じゃないよっ…」
「じゃあ、――好きか?」
 え、何か趣旨変わってない!?しかも何、その期待に満ちた目っ!
 もうしょうがないなぁ…。
「す…好き、だよ…」
 ”ジーーーーーー”
 はっとなって振り返ると、全員大注目だった!
 
 
          *
 
 
 辺りを観光して、お風呂に入って、夜は宴会場を貸し切っての夕食。会場には皆浴衣で集合した。
 最初はジュースで乾杯して、運ばれてくる料理に舌鼓を打って――。
 そこまでは良かったんだけど。
 うん、でもまぁ、こうなるっていうのは予測すべきだったかもしれない…。


「少年。まぁ飲め」
 どんっ、と僕の前に置かれたのは、――日本酒の一升瓶。
 似合いすぎだよ、来ヶ谷さん……。
「そーだゾー!理樹くんも飲め飲めー!」
「リキも飲みましょう〜!」
 そして、異様なハイテンションの葉留佳さんとクド。僕のコップに、なみなみとお酒が注がれる。
「さぁ、一気にいくがいい」
「イッキ!イッキ!」
「ぐぐーっといくのですっリキ〜!」
 ……あのさ、一応新婚旅行なんだけど…これ。そこんとこ分かってる…?
 ていうか全員未成年だしねっ!?
 こんな事態になったのも、来ヶ谷さんが宿の人にお銚子を一本頼んだのがきっかけだ。
 気が付いたら皆の御膳に銚子が一本づつ追加され――後は推して知るべし。
 流石に一升瓶を持って歩いているのは来ヶ谷さんだけだけどね。
 まぁ、さっきまでは恭介が、僕と鈴だけをお酒から隔離してくれていたんだけど…。
 今は、風呂場のロッカーに貴重品を忘れたらしい鈴に、恭介が付き添って――僕が一人になった途端、これだ…。
「あれぇ〜?理樹くん、飲んでないよぉ〜?」
 ほんのり上気した顔で現れたのは、小毬さん。ああ、この人も酔ってるっぽい…!
 僕のコップを見るやちょっと考え込んで、それからにっこり笑った。
「よぉっし!じゃ、私が飲んじゃおー!」
「ええっ小毬さっ…」
 あ……。
 普段のおっとり具合からは考えられないスピードで僕からコップを奪う。
 きゅー!と勢いよくコップを空ける小毬さん。
 それっ…日本酒なんだけどっ…一気って!!
 僕らの見てる前で見事に杯を乾かし、小毬さんは、ぷはっと息を吐く。そして、何事もなかったかのように、僕にコップを差し出してきた。
「はい!理樹くんもどーぞー」
 ええぇぇー!?そんなお菓子を勧めるみたいに言われてもっ。
 来ヶ谷さんは嬉しそうに破顔する。
「はっはっは!やるなぁ小毬君!さ、少年も見習え」
 再びコップの縁までお酒が注がれる。うーわー無理だよっ…!
 さっき恭介のを一口味見しただけで、少し酔ったぐらいなのにっ…。
「や、あのっ…ホントに無理っ…」
「こらこらお前ら。俺が目を離した隙に何やってんだ。理樹にはあんまり飲ますな」
 ひょい、と僕の手からコップを取り上げたのは、戻ってきた恭介だった。それを見た来ヶ谷さんが不敵に笑う。
「つまり――恭介氏が代わりに飲んでくれる、という事か?」
「理樹に手を出さないなら、それでもいいぜ?」
「ほほぉう…。では飲み比べ、といこうか」
 睨み合ったまま、ニヤリ、と笑う二人。
 うわっ鬼怖いし!こ、この二人の飲み比べかぁ……。
 ――と思ってたら、どやどやと周りに皆が集まりだす。真人が、コップを手に恭介の隣へ。
「俺もやってやるぜ!筋肉の凄さを見せてやるっ」
「筋肉とお酒が強いのはあんまり関係ないと思うよ…?」
「理樹の言う通りだな。…では、俺も参加しよう」
 少し離れて静かに謙吾が座る。
 うーん、盃似合うなぁ。
 クドと葉留佳さんもコップを片手に参加する気満々だ。小毬さんが片手を挙げて参加表明をする。
「はーい!私もやるよぉー!」
「こまりちゃんが参加するなら、あたしもやる」
 いやっ鈴は止めた方が!
 案の定、恭介が鈴の首根っこを捕まえる。
「鈴はダメ」
 ポイっと輪の外に投げ出され、ふかーっ!と威嚇する鈴。小毬さんが振り向いて、ほわんと微笑んだ。
「じゃぁ鈴ちゃんはぁ…私の応援っ、ね?」
「応援…だけでいーのか?」
「うん!そしたら私、すっごい頑張れちゃうよ?」 
「そ、そーか…。分かった。じゃぁこまりちゃんの応援だ」
 大人しく、鈴は小毬さんの斜め後ろを陣取った。
 向こうから西園さんがちょっとふらふらしながらやってきて、すとん、と僕の隣に座る。
「では、…わたしも参加しま…ヒック……」
 いや、もうすでに十分酔ってるよね…。
「よーし皆!コップは持ってるかー!」
「「「おーーっ!」」」 
 恭介の掛け声に、皆がコップを掲げる。
「では――”第一回!酒は飲んでも呑まれるな!一番強いの一体誰だ?飲み比べ大会”!はいカンパーイ!」
 「「「カンパーイ!!!」」」
 ああああ、もう誰にも止められない……。
 
 
 そして――二時間後。
「俺ぁもうダメだぁぁっ!」
 真人がバタリと床に伏す。クドと葉留佳さんは既に潰れ、床に伸びている。
 西園さんもさっきから目を瞑ったまま微動だにしない。座った姿勢を崩さない所が凄いけど。
 残っているのは、恭介と謙吾、来ヶ谷さんと、……小毬さんだ。
 僕と鈴は、大分前から皆の輪を離れ、遠くから皆を見守っている。
 いや、あの酔っ払い集団のノリは流石に辛かったからね…。
 葉留佳さんは絡んでくるわ、クドは突然泣き出すわ、釣られて泣きだした真人に抱き締められるわ…。
 その上謙吾には口説かれるし、来ヶ谷さんはべたべた触って来るし、西園さんにはやたらしつこく恭介の事聞かれるし。
 因みに、その間中恭介の視線が突き刺さって怖かったしね!
 それで鈴を連れて逃げ出したんだけど…。
「あの四人、強いね…」
「うん。こまりちゃんすごいな…」
「あ、謙吾落ちそう…って落ちたね」
「あいつ、いきなりだな」
 まさに糸が切れたように、それまで平気で杯を空けていたのに、突然何も言わずに頭から倒れる謙吾。
 これで残りは三人か。
「ねぇ、鈴は誰だと思う?」
「う、ん…難しいな…。でもあたしはこまりちゃんを応援してるからな。こまりちゃんが勝つ、にしておく」
「そっか」
「理樹は誰だ?」
「うーん……僕は恭介かなぁ」
「そーか。やっぱりツマはオットを立てるんだな!」
「や、それ違うと思――」
「あ…!」
 鋭く声を上げて、鈴が突然立ち上がる。ふと見ると、小毬さんが笑顔のまま、コップを持ってふらーりふらりと左右に揺れている。
 そして――。
「こまりちゃんっ」
 ぱったりと横倒れになった小毬さんを、鈴が寸での所で受け止める。
「たっ大変だ!こまりちゃんが死んだっ!!どうしよう理樹っ」
「大丈夫、死んでないから」
 一応傍に寄って確かめてみると、すっごく幸せそうな顔で眠っていた。
 何て言うか…色々と凄い人だなぁ…。
 これで残るは、二人の一騎打ち。まぁ予想通りではあるけれど。
「フフ…やるではないか、恭介氏」
「来ヶ谷こそさすがだぜ」
 まだまだ余裕そうな表情の二人――ていうか、これって放っておいたらいつまでも終わらないんじゃ…。
 宴会場って何時まで借りてるんだろう?時計はもう十二時を指しそうだ。
 恭介の方に寄って、袖を引っ張ってみる。
「ちょっと恭介」
「ん?どうした理樹」
「もう少しで十二時だけど、ここって何時までいいの?」
「あ…。忘れてた」
 やっぱり。恭介って変なとこで抜けてるんだよね…。
「悪ぃ、来ヶ谷。ここ十二時までだ」
「む…そうか」
 新しい一升瓶の蓋を今まさに開けようとしていた来ヶ谷さんは、拍子抜けした顔で恭介を見返す。
「では、どうする?」
「勝負は次回にお預けだな。…つぶれた奴らも回収しないとダメだろ」
 辺りはさながら死屍累々。女性陣はともかく、真人と謙吾を部屋に運ぶのは骨が折れそうだ。
 鼾をかいて気持ち良さそうに眠る男二人を見下ろし、恭介が真剣な顔で呟いた。
「粗大ゴミって張り紙しておけば、宿で片づけてくれるだろ」
「いやいやいやっ」
「ダメか?じゃ、巨大な生ゴミならどうだ」
「どっちにしろダメだからっ」
「なんだ、理樹…やけに庇うじゃないか。そんなにこいつらが大事か」
 いや、そういう問題じゃないよね!?もしかして酔ってる!?
 そして来ヶ谷さんは、眠るクドを前に棒立ちし。
「やっちゃおうっ…!」
「うわーダメーっ!!」
 いつもなら一応疑問符がつくのにっ!?実は二人とも酔ってそうで怖いっ…!
 鈴が慌てたようにクドを庇う。
「お前っ変なことしたらダメだからなっ」
「凛々しく子羊を庇う鈴君…ああ、エロい…」
「ふかーー!」
 ああ、明日まで皆無事だといいけど――。
 僕と鈴は視線を合せて、深々と溜息を吐いたのだった。
 
 
 
 
 
 

あとがき
 やっぱギャグが好きですヨっ!!ぶっちゃけ…後編は単なるエロ、なんで…。温く見逃して下さい…。
 つか、エロ見たくない方は前編のみで!

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